集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

NEJM Guideline Watch 2023

2023年9月24日  2023年9月24日 

 【ACLFガイドライン】(Crit Care Med 2023 May; 51:653. )

・門脈圧亢進性出血を伴うACLFの重症患者は、オクトレオチドまたはソマトスタチンアナログ(moderate-quality evidence)およびプロトンポンプ阻害薬(low-quality evidence)で治療すべき。

補足:日本ではオクトレオチドは保険適応外。バソプレッシンは、四肢の虚血等による死亡率の増加によって効果が相殺されるようで、(Up to date先生曰く)世ではほとんど使用されていないらしい。

【HFpEFのコンセンサスステートメント】(J Am Coll Cardiol 2023 May; 81:1835. )

・心不全の診断には、症状または徴候+ナトリウム利尿ペプチドの上昇or心原性肺うっ血or全身性うっ血の客観的証拠が必要である。

・H2FPEFとHFA-PEFFスコアは、HFpEFの可能性をより正確に推定することができる。前者は容易に入手可能な臨床データに依存し、後者は使用頻度の低い機能検査を組み込んだものである。

・HFpEFの薬物療法の基本はナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬である。

・ 緩和ケアはホスピスと同義であるという誤解を払拭することが重要。多くの症例で緩和ケアの役割を考慮すべきであえる。

補足1:原因不明の息切れを訴えるLVEF>50%の患者を対象とする多施設症例対照研究によれば、H2FPEFスコアは、HFA-PEFFスコア(0.710;95%CI、0.659-0.756)と比較して、曲線下面積が大きく(0.845、95%CI 0.810-0.875、差 -0.134;95%CI -0.177-0.094, p<0.001)、低リスク群における偽陰性率が低かった(55% vs 25%)(JAMA Cardiol. 2022;7(9):891-899.)。日本人の後ろ向き研究でも(学会抄録の発表なので詳細不明点は多いながら)、H2FPEFスコアは6点以上で特異度97%、1点以下で感度97%、AUC 0.89(95%CI0.86-0.93)とHFA-PEFFよりも有効であったとする報告あり(Int J Cardiol. 2021;342:43-48. )。

The H2FPEF score and point allocations
for each clinical ...

(出典:https://www.grepmed.com/images/3859/h2fpef-hfpef-diastology-diagnosis-cardiology)

補足2:Guideline watch内でCKDのガイドラインがあり本日記では割愛しているが、SGLT2阻害薬についてはCKDの観点から導入について記載あり。”SGLT-2阻害薬は、推定糸球体濾過量≧20mL/分/1.73m2の2型糖尿病およびCKD患者に推奨される。一度SGLT-2阻害薬の投与を開始すれば、eGFRが20mL/分を下回っても、忍容性がない場合や腎代替療法が開始されない限り、SGLT-2阻害薬の投与を継続することができる。SGLT-2阻害薬は、他の糖低下薬で糖尿病がコントロールされている場合でも、腎保護および心臓保護のために追加することができる”。

【COPD GOLDガイドライン】(Am J Respir Crit Care Med 2023 Apr 1; 207:819. )

・ COPD増悪の新しい定義:臨床症状(14日以内に増悪する呼吸困難±咳嗽)+気道への炎症(環境暴露や感染など)の2つを満たす。重症度は、呼吸困難の強度、呼吸数、心拍数、酸素飽和度によって決定される。増悪時には気管支拡張薬とプレドニゾン(1日40mgを5日間)を投与する。喀痰量や痰の量が増加している患者や人工呼吸中の患者には、5〜7日間の抗生剤投与が適切である。

・以前の治療カテゴリーCとDは、E(増悪)と名付けられた新しいカテゴリーに統合された。GOLDは血中好酸球値に基づく新しいガイダンスを提供している。カテゴリーA、B、Eの初期治療は…

 A:長時間作用性β作動薬(LABA)または長時間作用性ムスカリン拮抗薬(LAMA)
 B:LABA+LAMA(単剤療法からの変更)、呼吸器リハビリ。
 E:LABA+LAMA。血中好酸球が300個/μL以上の場合は、LABA+LAMA+吸入コルチコステロイド(ICS)を考慮。LABA+LAMAを併用しないICSは(好酸球のレベルにかかわらず)推奨されない。LABA + LAMA + ICSにもかかわらず増悪が持続する患者、または好酸球が100/μLを超える患者には、ロフルミラスト(慢性気管支炎でFEV1が予測値の50%未満)またはアジスロマイシン(非喫煙者)を考慮することができる。呼吸器リハビリ。


(出典:Eur Respir J 2023; 61: 2300239)

補足:ほとんどLABA+LAMAがメインの治療で、ICSは制限されているのが特徴。人工呼吸器を要する重症患者に対するステロイド投与期間については特異的に言及なし。重症患者を含むメタ解析では、5日 vs 10-14日の投与期間で再発リスクに差がなかった(OR 1.04、95%CI 0.70~1.56)ことから(Cochrane Database Syst Rev. 2018; 2018(3): CD006897.)、おそらくは5日ということにしているものと思われる。


【急性下部消化管出血のガイドライン】Am J Gastroenterol 2023 Feb 1; 118:208. )

・緊急(24時間以内)の大腸内視鏡検査が転帰を改善するというエビデンスは不足しているため、今回の更新では、緊急でない、または外来での診断および評価を安全に受けられる患者を特定するための臨床判断を助けるリスク層別化ツールの使用を強調している。

・Oaklandスコアは有効なリスク層別化ツールであり、スコア<8は95%の確率で安全な退院(すなわち、再出血がない、輸血や手技介入や再入院の必要がない、死亡がない)に相当する。一般に、リスクが低く、出血が止まっており、過去1年間に悪性腫瘍を除外するために十分な前処置下で質の高い大腸内視鏡検査を受けた患者は、外来で綿密なフォローアップを受けながら退院できる候補である。

・血行動態が不安定な下部消化管出血患者には、コンピュータ断層撮影血管造影が望ましい初回検査であり、出血後4時間以内に実施することが診断効率を最大化するために理想的である。CTAで積極的な血管外浸潤が発見された患者には、一般に大腸内視鏡検査よりも、経カテーテル的動脈造影と出血血管塞栓術を行うためのインターベンショナルラジオロジー紹介が推奨される。

・下部消化管出血量が少なくでオークランドスコアが8未満の患者には、抗凝固療法を継続することができる。入院が必要な患者の場合、抗凝固療法は入院時に中止し、通常7日以内に再開する。憩室出血により入院した場合は、再出血の危険性があるため、アスピリン(一次予防に使用している場合)や非ステロイド性抗炎症薬を中止すべきである。

補足:オークランドスコアとは外来受診した下部消化管出血疑いの患者を、入院せずに安全に管理できる患者を特定するために英国でデザインされた臨床予測ルールである。外的妥当性(なお、後ろ向き研究のため直腸診の変数を確認できず、今回の後ろ向き研究ではまるっと削除して点数付けを行っている。これを修正オークランドスコアとかいってしまっていいのか…直腸診に耐えられない患者にも選択肢を提供するとしているが…)を検証した米国多施設後ろ向き研究では(最終的な解析は38067人、死亡は2048人)、オークランドスコアの閾値が8点以下の患者は3305例(8.7%)で、安全な退院に対する感度と特異度はそれぞれ98.4%と16.0%であった。オークランドスコアの閾値を10点以下に拡張すると6770例(17.8%)が同定され、安全な退院の感度と特異度はそれぞれ96.0%と31.9%であった。なお、”安全な退院の定義”は複合アウトカムで、”24時間の臨床的安定の後ヘマトクリットが20%以上低下した、赤血球輸血、出血に対する治療的大腸内視鏡検査、IVRによる腸間膜動脈塞栓術、開腹手術、28日以内に下部消化管出血を伴う再入院の全てが発生しなかった”、である。(JAMA Network Open. 2020;3(7):e209630)。

Oakland Score Variables

(出典:JAMA Network Open. 2020;3(7):e209630)

【 周術期の抗血栓療法ガイドライン】Chest 2022 Nov; 162:e207)

・ビタミンK拮抗薬(以下、VKA。ほぼワルファリン)の投与を受けている患者で、手術前にVKAの中断が必要な場合:
手術の5日以上前にVKAを中止し、手術後24時間以内にVKAを再開する。 心房細動、静脈血栓塞栓症、または機械式心臓弁のためにVKAの投与を受けており、血栓塞栓症のリスクが低~中等度の患者には、ルーチンのヘパリンブリッジを行わない。血栓塞栓症のリスクが高い患者では、ヘパリンブリッジを考慮する。ヘパリンブリッジが必要な場合、手術の4時間以上前に未分画ヘパリンの静注を中止し、手術の24時間以上後に未分画ヘパリンを再開する。

・直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)治療を受けている患者:
特定のDOAC、患者因子(例 慢性腎臓病)、個々の患者の出血リスク、予想される手術または手技による出血リスクに基づき、手術または手技の1日~4日前にDOACを中止し、手術または手技の24~72時間後にDOACを再開する。

・抗血小板薬投与中の患者:
非心臓予定手術では周術期にアスピリンを継続する。アスピリンを中止する場合は、手術の7日前までに中止する。P2Y12阻害薬の術前中断は、薬剤の種類に寄る(クロピドグレル5日間;チカグレロル3〜5日間;プラスグレル7日間)。再投与は術後24時間以内に行う。軽度の手術(歯科、皮膚科、眼科など)の場合、抗血小板薬単剤投与を受けている患者は周術期にも抗血小板薬を継続するが、抗血小板薬二剤投与を受けている患者はアスピリンを継続し、P2Y12阻害薬を中断する。

【 周術期の薬剤管理 追加ガイドライン】(Mayo Clin Proc 2022 Feb; 97:375など)

補足:非常に有用だがいかんせん枚数が多すぎて、都度読む方が良さそう。


【非重症入院患者の高血糖管理に関する最初のガイドライン】(J Clin Endocrinol Metab 2022 Aug; 107:2101. )

・ 入院前に食事療法または非インスリン療法を受けていた糖尿病患者では、補正またはスケジュールインスリンを推奨し、グルコース目標値は100~180mg/dLとする。

・2型糖尿病で軽度の高血糖を有する一部の患者では、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬と補正または予定されたインスリン(基礎または基礎-ボーラス)を併用することが推奨される。

補足:一般的なICUでの血糖管理よりも下限が100と引き下げられている。DPP4阻害薬は、他の経口血糖降下薬と比較して、急性疾患患者において問題となる副作用が少ないと考えられている。

【コメント】

・ 全分野の即時アップデートは大変なので、まとめてくれて大変ありがたい。自分のプラクティスに関わりそうなところだけ忘備録を兼ねつつピックアップ。個人的目玉(知らなかったの)はオークランドスコアとH2FPEFスコア。

・オークランドスコアについては、ICUで使用できるか?というとSettingが違う上に、Hb<13g/dL(スコア上の一発アウト群)という患者はICUで多数いるため、ICUでの使用は無理であろう。なお地名かと思ったら人名だった。

・H2FPEFスコアは使えそうな印象。スコアを眺めると、肥満、高血圧を未治療の患者がAf+心不全になって現れた…という病像だろう。スコアを意識したことはなく使用したこともなかったが、臨床肌感覚にマッチしているため非常にわかりやすく客観視しやすい。

・HFpEFの患者をICUにいる間にSGLT2阻害薬を導入すべきか?とくことについては結論が出ていないと解釈している。少なくともICUでは新規導入で投与したことはない。効果が出現するのに26日程度かかかりすぐに効果を発揮する薬剤ではなく(JAMA Netw Open. 2023;6(8):e2330754)、高価で副作用もあり、一般病棟で食事開始しつつなぜ内服が重要なのかという教育後に導入、でいいのでは?

・実臨床では挿管するようなCOPD患者のステロイド投与期間はまちまちである。ほとんどのケースが5日(抜管されている、あるいは抜管できそうなケース)だが、重症+挿管されて長引いているor過去に挿管歴があって長引きそうなケースでは、挿管中に限って最大10-14日継続している気がする。

・DPP4はたしかに急性期の副作用がなく使用はし易いのだが、長期的に有用かというと疑問が残る。とはいえ往々にして導入か再開して内科にお渡しすることがしばしばあるが。

・「肥満の小児および青年の評価と治療のための診療ガイドライン」については、評価者が辛口なコメントを残している。ガイドラインは方法論に忠実であることばかりに拘って(推測です)、ユーザーフレンドリーさに欠けるものもありますよね。。。(→https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/12/99_3054/_pdf日本で販売されているガイドラインは一体誰が買うのだろう?

【参考文献】


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