集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

Surgical Buy-inとは

2022年11月20日  2022年11月20日 

  【話題になった論文】

Schwarze ML, Bradley CT, Brasel KJ. Surgical "buy-in": the contractual relationship between surgeons and patients that influences decisions regarding life-supporting therapy. Crit Care Med. 2010;38(3):843-848. 


【結論】

・Surgical Buy-inとは、”外科医と患者の間に結ばれる、暗黙の契約”のことを指す。例えば、患者が「意思疎通が取れなくなったら、延命はやめて下さい」と術前に言ったとしても、外科が提供する医療パッケージには延命が組み込まれている場合には、自動的に延命処置が行われる。
・患者は求めるアウトカムのために手術手技のみに同意するのではなく、医者の術後管理方法や医師の主義主張のパッケージを丸ごと同意しなければならない。通常、このパッケージは詳細に説明されない。
・筆者らは、このパッケージごと承認したことを理由に、起きた結果の責任を患者に押し付けることを懸念している

【内容】

・研究は外傷外科医や移植外科など様々な外科医10名(平均経験16年、男性8名)を対象に、周術期の事前指示書(Advance Directive)に関する2症例を提示し、9つの自由形式の質問を含む面談を行った。面談後の内容は、グラウンデッド・セオリーを用いて統合された。
・症例1:ハイリスクな定例手術後7日目、状態が悪く挿管され経管栄養を投与中の患者。患者の代理人が外科医に、それまで公表されていなかった事前指示書を提示し、生命維持療法を中止するように依頼した。
・症例2:ハイリスクな定例手術前の術前診察を受けている患者。患者は、生命維持手段が必要になった場合、長期間(ただし未定)に生命維持が必要な場合には途中で中止するよう具体的に指示した事前指示書を持参してきた。

【コメント】

・Buy-in は外科医の手術結果に対する強い責任感に基づいている。また、手術成績で外的に評価されているという外科文化や外科医個人の考え方(外科医は、”これだけ労力を払ったのだから、、、”と感じる)によってBuy-inは自然と強化される。
・本文中では触れられていなかったが。患者側にもBuy-in強化の理由があると思う。たいてい、説明が事細かに及ぶと”自分は素人でよくわからないからおまかせします”となって、患者側の理由で説明が打ち切りになることもしょっちゅうある。そうなると、Buy-inされる。
・よって、Buy-inは無くなることはない。結果、ICUにおいて患者が意思決定困難になった状態になった場合に、とりあえずできる限りのことをして転院、ということが治療のゴールとなってしまう。
・こういう背景を理解していないと、集中治療室で働く医療者は心が疲れてしまうので要注意。
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