集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

E/e'の落とし穴

2023年11月26日  2023年11月26日 
集中治療医が好きな心エコーの測定所見TOP3といえば、
1.VTI 2.E/e' 3.TAPSE
である。間違いない。
回診でも毎日の様に耳にする所見である。
残念ながら、しばしば、所見の絶対値に振り回されている印象がある。

【E/e'とは】



拡張期は、収縮期に捻られながら収縮することでエネルギーが蓄えられる→ねじれが開放され左室内圧が低下(等容性弛緩期)→左室圧が左房圧を下回ると圧較差が発生し僧帽弁が開放され血液が流入(急速流入期)→血液が左心房と左心室間の圧較差がなくなるまで流入(緩徐流入期)→心房収縮によりダメ押し(心房収縮期)、という経過をたどる。

この経過中の等容性弛緩期を見ているのがE/e'である。
通常、拡張能といえば等容性弛緩期で評価する。
E=僧帽弁流入早期拡張期速度:左室と左房の圧較差および左室弛緩能によって規定
e'=僧帽弁輪運動早期拡張期速度:左室弛緩能によって規定

何を見ているのかざっくりいうと、E/e'とはE波を構成する要素(左室と左房圧較差と左室弛緩能)から、e'波を構成する要素(左室弛緩能)を除すことによって、左室と左房圧較差の影響だけを見たい、というものである。

ここで、左室左房圧較差を規定する因子をみてみると、左室弛緩機能と左房圧である。
左房圧は左室前負荷の指標であるため、E/e'というのは左房圧に近似する。
よって、E/e'というのは前負荷の指標という理屈である。

【E/e'のPitfall】

技術的要因:カーソル角度(20°を超えないこと)、ゲイン、測定位置、測定機器の違い
患者要因:これが最大の解釈を混乱させる要因。

中隔側のe'上昇
 中隔の壁運動異常:心室再同期療法、肺高血圧症、脚ブロック
e'低下
 壁運動異常:心筋梗塞(部位による)、ペーシング
       肥大型心筋症(E波は上昇しにくいためE/eでみると上昇傾向)
 E波とA波の融合:頻脈、房室ブロック、左脚ブロック
 左室直軸方向の壁運動低下:糖尿病
E上昇
 圧較差上昇:僧帽弁狭窄症(弁輪の運動制限でe'は低下する)
E低下
 加齢:E/A比が<1かつe′が<7cm/sであれば、E/e′比>15は正常所見とみなせる報告あり
LVEDPとの相関が悪くなる
 健常人、HFpEF
LVEDPと逆相関するようになる
 LV圧上昇にもかかわらずe'は保たれる:収縮性心外膜炎
(側壁側は側壁のテザリングが発生し小さくなりやすい)


【コメント】

・拡張能の生理学は難しい。理解しているとは到底言い難い。

・少なくとも言えることは、IVCしかり単一のパラメータで輸液の出し入れを決定してはならない。ICUでE/e'を活用するならば、身体所見と組み合わせる+トレンドフォロー+臨床経過と照らし合わせて、となる。実際、身体所見と組み合わせると左室充満圧上昇に対するAUCが増加した(心エコー0.87、身体所見0.71、組み合わせ0.91)という報告もある(J Am Coll Cardiol . 2017 Apr 18;69(15):1937-1948)。

 【参考文献】

Park JH, Marwick TH. Use and Limitations of E/e' to Assess Left Ventricular Filling Pressure by Echocardiography. J Cardiovasc Ultrasound. 2011;19(4):169-173. 

Sunderji I, Singh V, Fraser AG. When does the E/e' index not work? The pitfalls of oversimplifying diastolic function. Echocardiography. 2020;37(11):1897-1907. 

Mitter SS, Shah SJ, Thomas JD. A Test in Context: E/A and E/e' to Assess Diastolic Dysfunction and LV Filling Pressure. J Am Coll Cardiol. 2017;69(11):1451-1464. 

ー記事をシェアするー
B!
タグ

コメント

人気の投稿