集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

NEJM Guideline Watch 2024

2024年10月20日  2024年10月20日 

 

 【下肢動脈疾患ガイドライン】(Circulation . 2024 Jun 11;149(24):e1313-e1410.)

・症状ある末梢動脈疾患患者で、かつ出血リスクが高くない患者では、低用量リーバロキサバンとアスピリンを併用することで、主要有害心血管イベントおよび主要有害四肢イベントリスクを低減する。

・PADと2型糖尿病を併発している患者ではGLP-1アゴニストおよびSGLT2阻害薬は主要有害事象を減少させるのに有効である。

補足:末梢動脈疾患はABIにて診断する。その上で、アスピリン・血圧コントロール・LDLコントロール・糖尿病管理・禁煙・ワクチン接種を行うことが標準治療である。それに加えて、少量リーバロキサバンを加える。この元ネタはCOMPASS試験(N Engl J Med . 2017 Oct 5;377(14):1319-1330.)。ガイドラインでの出血リスクが”高くない”であるが、COMPASS試験を読んでも、Exclusion criteriaにHigh riskと一言書いてあるだけで意味不明だった。並列されているExclusion criteriaから推測すると、1ヶ月以内の脳卒中または出血性脳出血の既往歴、eGFR15未満、アスピリン以外の抗血小板薬またはDAPT、CYP3A4およびp糖蛋白を阻害する薬剤使用中、肝疾患、妊娠のことであろう。

【急性膵炎管理のガイドライン】( Am J Gastroenterol 2024 Mar; 119:419.)

・急性膵炎の患者はすべて、胆道性膵炎の評価のために経腹超音波検査を受けるべき。初期の臨床検査および画像診断の結果、急性膵炎の原因が不明な場合は、患者は追加の診断評価を受けるべきであり、その中には超音波検査の再実施、MRI、または内視鏡的超音波検査が含まれる可能性がある。

・生理食塩水よりは乳酸リンゲル液による中程度に積極的な輸液による蘇生を開始すべきである。輸液量は10mL/kgをボーラス投与し、その後1.5mL/kg/時で持続点滴する。患者にHypovolemiaの徴候がある場合は、追加ボーラス投与を行うことができる。

・胆管炎を伴わない急性膵炎の患者に対しては、最初の72時間以内は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)よりも内科的治療が優先される。

・ERCP後膵炎のリスクが高い患者には、インドメタシン挿肛をすべきである。ERCP後膵炎のリスクが高い患者で直腸内インドメタシンを投与している場合は、膵管ステントを使用すべきである。

・感染性膵壊死患者には抗生物質が不可欠であるが、針吸引は実施すべきではなく、重症急性膵炎の患者全員に予防的抗生物質を投与すべきではない。

・軽症急性膵炎の患者には、早期経口栄養(24~48時間以内)として、低脂肪の固形食(流動食ではなく)を開始すべきである。

補足:なぜ膵炎で輸液が重要か?静脈内輸液により血流担保することで、膵臓壊死と膵臓酵素の持続的な放出が防止され、これにより進行中の炎症が防止され、血管透過性の増大というサイクルを断ち切りつつ、膵臓低灌流を予防することができるからと言われている。文章にするとわかりにくいが、悪循環を断ち切るため、といえる。

(出典:Am J Gastroenterol 2024 Mar; 119:419.)
輸液に関しては上記の通り”乳酸”リンゲル液でスタート、6時間後と24時間に再度アセスメントとしてBUN/Hctを再検査、以後は24時間毎にアセスメントし直す。これで48時間で60Kgの人が4920ml+αの輸液が投与される。急性膵炎が最初の48時間で腹膜に2000〜4000mlのFluid lossが発生することを考えると(Pancreas . 2016 Feb;45(2):306-10.)、ちょうど釣り合いが取れる。なぜ乳酸リンゲルなのか?乳酸は、生化学的に炎症を抑制する可能性があり(ARRB2/GPR81を介して、NLRP3アマソームにおける TLR 誘導および IL1b 産生にネガティブフィードバックをかけること、乳酸カルシウムが非エステル化脂肪酸と結合することで炎症初期の全身性炎症を軽減する可能性があるらしい)、生理食塩水との比較でも有利な結果が出ている(Gastroenterology . 2021 Feb;160(3):655-659.  )。
ガイドラインではBUNの低下が目標となっているのが面白い。BUNが使用される理由としてはBUNは腎灌流の指標として使用されることがあるからのようである。しかし、BUNは体液濃縮については特異度が低い。BUN上昇には循環血液量減少以外にも、腎不全やタンパク質異化亢進、消化管出血、タンパク質過負荷などが関与する。それでも、他施設前向き研究では24時間後のBUN上昇は膵壊死(AUC0.67)や多臓器不全(AUC0.71)を予測した Am J Gastroenterol . 2015 Dec;110(12):1707-16.、本文未読)。


【消化管出血患者の管理における画像診断の役割】(Radiology. 2024 Mar;310(3):e232298. )

・ 非潰瘍性上部消化管出血(食道、胃、十二指腸)の評価は禁忌でない限り、上部消化管内視鏡(EGD)から開始。EGDで止血ができない場合はカテーテル血管造影。稀に出血部位が特定できない場合にはCTアンギオグラフィー→Extraがあればカテーテル造影。

•小腸出血(Treitz靭帯〜回盲弁の間)の評価は循環動態が安定していれば上部消化管内視鏡検査+大腸内視鏡検査で原因が特定できない場合は、カプセル内視鏡検査。ここまでやって結果が陰性であれば、経口および静脈内造影剤を使用するCT enterography。ただし、ビデオカプセルの滞留リスクが高い患者(狭窄、放射線など)や小腸の腫瘍が疑われる患者に対してはCT enterographyを第一選択の画像検査であるべきである。出血が持続していると予想され循環動態が不安定な患者はCTアンギオ。

部消化管出血(回盲弁より遠位)の評価は、血行動態不安定→CTA、Extraがあればカテーテル造影+血管塞栓術を90分以内に実施。血行動態安定ならば、前処置後に大腸内視鏡


【ICU外急変対応のガイドライン】Crit Care Med. 2024 Feb 1;52(2):314-330.)

病棟の患者に懸念すべき兆候が見られた場合、スタッフは直ちに新たなバイタルサイン全てを計測、重大な異常を適切な臨床医に緊急に報告する。

・ICU以外の病棟の患者の状態が悪化した場合は、明確な発動基準を定めた迅速対応チーム(RRT)を派遣すべきである。 RRTの構成は施設によって異なる。チームリーダーは通常、集中治療看護師および呼吸療法士であるが、医師や高度医療従事者(ナースプラクティショナーまたはフィジシャンアシスタント)をメンバーに含める施設もある。SCCMは、病院のRRTに医師が参加すべきかどうかについては、SCCMは推奨を行っていない。

・対応するRRTの臨床医メンバーのうち少なくとも1人は、患者のケアに関する目標を引き出すこと、および患者の希望と予後を反映した治療計画を策定することに精通しているべきである。 患者、家族、およびケアパートナーは、病院スタッフおよびRRTに警告を発する権限を持つべきである。

補足:病院にRRTが必要なのか?メタ解析論文は院内死亡率とICU外心肺停止の両方を低下させると言っている(J Hosp Med . 2016 Jun;11(6):438-45.)。一方で、大規模RCTでは院内死亡率もICU外心肺停止も減少させなかった(Lancet . 2005 Jun;365(9477):2091-7.)。ここらへんは、医療システムや院内リソースなどの要因があるため適宜、施設ごとに最適化する他ない。


【ACLSガイドラインのUpdate】Circulation. 2024 Jan 30;149(5):e254-e273.)

体温管理:ROSC後に指示に従わない成人患者全員に体温管理を行う。低体温よりも発熱予防(体温を37.5℃以下に維持)の方が重要である。ただし、一定の温度(32℃から37.5℃の間)を維持することは推奨される。ROSC後にすでに低体温状態にある患者は、1時間当たり0.5℃を超えない速度で再温めるべきである。

痙攣の管理:心停止後の患者で、指示に従えない場合は、連続脳波記録(EEG)ではなく、スポット脳波記録(EEG)を行うことができる。ROSCが得られ、脳波検査で発作または発作波の証拠が認められる患者には、鎮静作用のない抗痙攣薬の治療的試験を検討できる。

・体外式膜型人工肺(ECMO):ECMOを用いた蘇生は、訓練を受けた臨床医と設備が整った医療システムが提供できる場合、一部の患者に適している。

・AHA委員会は、心停止患者に対してカルシウムを定期的に投与することを推奨していない。また、また、心肺蘇生が成功した患者に対しては、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、ショック、電気的不安定性、重大な心臓損傷の兆候、または進行中の虚血が認められない限り、緊急冠動脈造影をルーチンに行うべきではないと推奨している。

補足:心停止後にカルシウムをルーチンで投与はしたことがない。が、臨床現場では”あらゆる手段を試す”ということで、やられている事が多いらしい。実際に自分が目撃したことは一度たりともない。今回は明確な否定をしているが、元ネタは院外心停止に塩化カルシウムを投与でROSC率を検討したCOCA研究(JAMA . 2021 Dec 14;326(22):2268-2276.)。塩化カルシウムの蘇生に対する投与効果は示されず、90日神経学的予後悪化傾向にあったため試験は早期に中断された。

【 ARDSガイドライン】(Am J Respir Crit Care Med . 2024 Jan 1;209(1):24-36.)

・ステロイドの投与が推奨されるが、ステロイドの選択、用量、タイミング、期間については具体的な指針はない。この文書では、特定のARDSの原因(例:COVID-19、市中肺炎)に対するステロイドの推奨事項に従うことが提案されている。

・重症の ARDS(酸素分圧[PaO2]:吸入酸素分圧[FiO2] <100)患者の早期治療には神経筋遮断薬(NMB)が推奨され、その期間は48 時間以内に限定すべきである。

・現在、選択された患者に対しては低確実性のエビデンスではあるが、重度のARDS(PaO2:FiO2 <80 または pH <7.25 で PaCO2 ≥60 mm Hg)に対して静脈-静脈体外式膜型人工肺(ECMO)が推奨されている。

・中等度から重度のARDS患者には、より高いレベルの陽性終末呼気圧(PEEP)が推奨される。

・リクルートメント操作(すなわち、無気肺の肺胞を開くことを目的とした、より高い吸気圧の短時間の保持)は強く推奨されない。

・中等症から重症のARDSに対する低換気量換気および体位変換の両方に対する強い推奨は、2017年のガイドラインから引き続き残っている。


【コメント】

・ 全分野の即時アップデートは大変なので、まとめてくれて大変ありがたい。自分のプラクティスに関わりそうなところだけ忘備録を兼ねつつピックアップ。個人的目玉(知らなかったの)は下肢動脈疾患にイグザレルトを加えること。ただし、ほとんどICUで目にする患者は透析患者で下肢の壊死を伴っていることが多く、イグザレルトを加えている場合ではない。そういった患者に必要なのは、イグザレルトなんかよりもまず、治療のゴール設定を決めて家族や関係者と共有することである。さもなければ、待っているのは急変である。

・下部消化管出血の血行動態不安定患者はIVRが1stである。が、日本にそんなフットワーク軽いIVR医がどの施設にもいるのだろうか?少なくとも自施設にはIVR医がいない。この点は救急および消化器内科とコンセンサスを形成しなければならない。

・RRTについて、日本では、加算がつくので流行りである。が、機能しているかは別問題だ。システムとしてあっても、お飾りのRRTになりかねないので、その場合はRRTをモニターする委員会が必要となってデータを元にフィードバックするべきである。ところで、ガイドラインでは医師が参加すべきかどうかは不明といっている。普通に考えれば、日本ではちゃんと機能する医師がRRTに参加しておくほうが良いと思う。ちゃんと機能する、とは予後推定がある程度(正確に越したことはないが、正確でなくても関係者とすり合わせができればOK)できてネゴシエーションできる医師を指す、はず。こういったリソースに依存して個別化していく必要があるシステムは大規模研究ではPositiveな研究として出にくそう。

・SCCMはRRTに医師が参加すべきかどうか推奨はしていない割に、RRTに臨床医がいる前提で話が進んでいる。どないしたらいいんや。個人的感覚ではおそらくRRTは院内死亡を減らさない気がする。

慢性の大麻使用に関連する周期性嘔吐症候群の一種である大麻過剰嘔吐症候群(CHS)の発生率が米国で上昇しており、ガイドラインが発表されている。全く知らない概念であった。ガイドラインウォッチでも取り上げられていたが、今回は割愛。対症療法しつつ、根本は大麻の中止が必要。ただし、いきなり中止は治療失敗するらしく漸減しつつ精神科医とフォローが必要らしい。まあ日本で慢性大麻使用患者を診療することもあるまい(そもそも外来ベースで精神科と強調してフォローなんて無理だろう)。

【参考文献】


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