集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

新人アテンディングへ送る経験則

2024年4月21日  2024年4月21日 
EMCritより、新人アテンディングへ送る10の経験則が紹介されている。
どれも素晴らしい経験則であり、コメントとともに紹介。

参照:https://emcrit.org/emcrit/heuristics-for-the-new-icu-attending/?fbclid=IwAR2Ax0Se3bvfLXEaaZvlgO4SkHLWQRm88UW58xmFMAWyBrCDPgyGG7gtXkE_aem_AVGtXYUa-subkOVown3A2ZpDGYwBjkmFUu2U9aNo7LOpWgNw2otqWiacksh85aix-aw

 1. 脈圧の狭いショックに対するPOCUS

”脈圧が30mmHg未満のショックでは、緊急にPOCUSを行い、RV/LV不全、閉塞性ショック、または重度の血液量減少を確認する必要がある。”

コメント:脈圧は心拍出量の代用指標であるため、脈圧が低いショックは心原性ショックの否定から入る必要があり、緊急事態である。

2. 持続的Hypovolemia = 動的LVOToの可能性

”輸液負荷に一過性に反応する 持続的な Hypovolemia患者を診察した場合、第一に出血の有無を確認する。第二に、単にHypovolemiaであるとと考えるのではなく、動的な左室流出路閉塞、心室間相互作用(intracavitary gradients)、拡張機能障害について考える。持続的な輸液反応性を治療するために15Lの輸液を行うことは、おそらく正しい行動ではない。”

コメント:これまた心エコーが大事なことがよくわかる。見た目に騙されて収縮性心外膜縁でした、みたいな落とし穴にハマらないようにこの3つは鑑別に上げたい。

3. 同じ質問を2回する看護師

”看護師が(あるいは看護師でなくても)同じ質問を二度してきた場合、あなたの判断が疑われていると思わないでください。”

コメント:この10の経験則において2つ優れた経験則をあげるとすれば、そのうちの1つ。同じ質問を2回された場合、自分の判断が間違っているか、コミュニケーション方法が間違っているかの2つを必ず再検討すべきである。これができない集中治療科指導医は、2 challenge ruleに対する理解が欠落しておりガチで危機感持ったほうが良い(年齢や職位によっては権威勾配でchallengeすることさえためらわれるので、自覚がなければ一生改善しない可能性あり。裏を返せば、年食ってchallengeされているうちは良い指導医だということかもしれない)。
Chat-GPTでさえ、まちがってません?と聞いたら大変失礼しました、と返してくれて再考してくれるのだ。知識も態度もChat-GPTに劣ってはいけないな、と自戒せねばならない。
2回目の質問をされたら、2回目を伝えてくれたことに感謝を述べた後に、その場での決断を保留するか、緊急事態なら他の人の意見を聞く、というプランとしよう。

4. 敗血症性ショックは血液分布異常性ショックと同じではない 

コメント:病像としてはとても紛らわしい現場によく遭遇するが、最終的に全てのショックはDistributive shockを併発する。 

5. 未診断の敗血症 がICUで診断に至ることは稀である

コメント:”ショックです”とプレゼンされたら、”で、ソースは?”と切り返すのが普通なので当然といえば当然である。敗血症は病像がわかりやすいので、飛びつかれやすい。よって未診断で入室することは稀というのはご尤も。全てのショックはショックソースへの介入を目指せ。

6. 乳酸値の上昇は輸液(必要性)を意味しない

コメント: これだけでは内容不足で、この後ろにもう1行付け加えるべき。”しかし、他科はこれを理解していないことを、集中治療医はよく理解しておくこと。”

7. 安定した心停止蘇生患者など存在しない

”彼らはただ死亡しただけである。彼らは、あなたの診療科/病院で最も死に近い患者である。患者を死に至らしめた病気はまだ進行中であり、時間が重要。診断を優先し、十分なアクセス(動脈+静脈)を確保し、確実な治療を行う”

コメント:心停止は表現型。プロブレムを表現型にしない、というのは指導医になる前に叩き込まれているはずなので、指導医向けの経験則としては疑問が残る。 

8. 心停止患者は同時に神経、外傷、心臓(にプロブレムを持つ)の患者である

”心停止後の患者は同時に、1)心停止、2)蘇生後脳症、3)胸部外傷(誰かが30分ほど胸を押しつぶした)のプロブレムを持つ。心停止後にCTスキャンを行う場合、PANスキャンの閾値は低い(頭部、胸部、腹部)。”

コメント:これはあるあるで、よく胸部外傷がプロブレムから落ちやすい。心臓外科術後の患者では特に注意が必要。

9.POCUSが輸液を増やすように指示するなら、おそらく間違った使い方をしている

コメント:POCUSは反応性を示唆してくれて、輸液の有害性を確認するツールである。決して輸液必要性は指示しない。まあ、IVCが◯◯なので輸液しました、というフレーズは研修医時代に誰もが通る道である。

10. 家族や患者が「何でもやってほしい」と言うとき、それは何が何でも命を助けてほしいということではなく、むしろ自分たちを見捨てないでほしいということである

コメント:この10の経験則において2つ優れた経験則をあげるとすれば、そのうちの1つ。いや、最も優れた経験則と言って良いかもしれない。過去ポストで集中治療医ならば必読の論文を紹介した(参照:https://intensivist-rounds.blogspot.com/2021/11/blog-post_20.html)。99%以上の確率で、文面どおり”全ての医療行為を行う”と解釈してはならない。ただし、1%未満の確率でまさに文面通りの全てを要求する人もいるのでそこはケース・バイ・ケース。
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