集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

迷わず引けよ、引けばわかるさ(心不全への利尿)

2024年12月22日  2024年12月22日 

【心不全患者の急性期利尿目標は?】

血行力学的うっ血が解除されるまで、といえば一言で終了する。
 血行力学的うっ血の定義:LVEDPの上昇によるVolume overload状態
 臨床的うっ血:左室圧上昇による症状や特徴の集まり

通常、臨床的うっ血症状出現の数日前から血行力学的うっ血が出現する
LVEDP(肺動脈楔入圧[PAWP]で代用)の上昇→BNP分泌+腎交感神経減弱+バソプレシン分泌低下→尿量増加となるが、心不全ではこの反応が障害されているため、うっ血が進行する

血行力学的うっ血の解除を持って、左室リモデリングを回避→予後悪化が回避できるのであり、1年後の生存率改善の独立した予測因子であることが報告されている[80.8% vs 64.1%](Circulation. 1994;90(pt 2):I-488.)。
以上より、利尿の目標は”血行力学的”うっ血の解除がである。
問題は、臨床の現場では血行力学的うっ血の検出が難しく”単一”指標がないことである。


血行力学的うっ血&臨床的うっ血のパラメーターについては、おそらく、最も皆が見ているであろうガイドラインの表が部分的に参考になる。
これを見ると、血行力学的うっ血の代用指標が臨床的うっ血の指標に混ぜられている。
下図のEVEREST scoreも臨床的うっ血の程度を評価するスコアであるが、同じように血行力学的うっ血の代用指標を複数項目を採用している。

Table 1 from Clinical course and predictive value of congestion during  hospitalization in patients admitted for worsening signs and symptoms of heart  failure with reduced ejection fraction: findings from the EVEREST trial. |

【現実的にはどれくらい利尿するのか?】

利尿に際して、基本装備はループ利尿薬である。
現実的にはどれくらいの利尿しているのか気になりませんか、あなた。
研究によれば、BNP/pro-BNP(Am Heart J 2005; 150:984.e1–984.e6.)も、PAWP/CVP( Crit Care Med. 1984;12:107–112.)も、Volumeを入れたときの血液希釈割合(J Cardiovasc Transl Res. 2015;8:404–410. )も、体液量推定、つまり利尿目標の指標にならない。

現実的にどれくらい利尿したのかざっと各研究を見てみると…
DOSE-AHF試験:EF35%、累積バランス -4200ml/72hr
CARRESS-HF試験:EF35%、体重中央値106Kg、累積バランス -7100ml/96hr
ROSE-AFH試験:EF35%、BMI中央値31、尿量 8300ml/72hr
EVEREST試験:EF27.5%、プラセボ群-1Kg/day(試験薬群 -1.8kg/day)
3T試験:EF30%、BMI38.6、体重-4.6~5.8/48hr、累積バランス-4600〜6400ml/48hr
CLOROTIC試験:EF55%、BMI30-33、体重プラセボ群-1.5kg/72hr(試験薬群-2.5Kg/72hr)

rEFだと、ざっと-1500mlくらいのバランスは達成していそうである。

【コメント】

・以前に、どういう患者にどうやって引くか?というのを見た。今回はどこまで引くか?という話。PAWPが輸液反応性の静的指標あるいは体液量推定としてはオワコンだから、ついつい輸液関連では無視されるパラメーターではある。しかし、利尿中の挙動は利尿到達点の指標としては重要であろう。こいつを代用するような、エコー初見は利尿中にモニターする必要がある。

・実際に利尿バランス-1500ml/dayは肌感覚に合う。むしろ、Day1は−2000〜2500は普通で、そこからペースダウンという勾配になっているはず。利尿の目的はバランスをマイナスにすることなので、日々のディスカッションでは”尿量”とは言わず”バランス”で統一すべき。

・心音聞くの好きだけど、左側臥位にするのが手間(3音聴取の感度が2倍上昇)なのと、F#CK youre screwedで覚えてしまったので他の人に伝えにくい。。。(→https://www.youtube.com/watch?v=qd1FhUJ8y7c&list=LL&index=213

【参考文献】

Gheorghiade M, Filippatos G, De Luca L, Burnett J. Congestion in acute heart failure syndromes: an essential target of evaluation and treatment. Am J Med. 2006;119(12 Suppl 1):S3-S10.

Mullens W, Damman K, Harjola VP, et al. The use of diuretics in heart failure with congestion - a position statement from the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology. Eur J Heart Fail. 2019;21(2):137-155. 

Girerd N, Seronde MF, Coiro S, et al. Integrative Assessment of Congestion in Heart Failure Throughout the Patient Journey. JACC Heart Fail. 2018;6(4):273-285.

Felker GM, Ellison DH, Mullens W, Cox ZL, Testani JM. Diuretic Therapy for Patients With Heart Failure: JACC State-of-the-Art Review. J Am Coll Cardiol. 2020;75(10):1178-1195. 

Miller WL. Fluid Volume Overload and Congestion in Heart Failure: Time to Reconsider Pathophysiology and How Volume Is Assessed. Circ Heart Fail. 2016;9(8):e002922.


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