集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

ICUで胃残量を確認しなくていい

2025年5月18日  2025年5月31日 

 複数の急性期病院で、”胃残量◯◯だったので経管栄養止めました”というフレーズを聞く。

これで困るのは、経管栄養を止めることが頻発すると、いつまで経っても目標カロリーに達しないことである。

【胃残量を確認する研究】

ICU関連だと大規模研究はREGANE studyとCRICSグループの研究がある。

REGANE study
対象:
 人工呼吸器+経鼻胃管から栄養を最低5日間投与されている患者

比較:
 経管栄養を中止する胃残量を200ml vs 500mlで比較

その他の介入:
 ・栄養開始して初日は6時間毎、開始2日目は8時間毎、3日目以後は1日1回の胃残量を確認。
 ・胃残量は重力に従って胃管開放10分または50mlシリンジで用手吸引のいずれかを使用。
 ・誤嚥予防にヘッドアップ30度を実施
 ・補助的静脈栄養は使用OK、量は規定なし
 ・全例最初の3日間はメトクロプラミドを静脈投与
 ・胃残量が既定値を超えた場合には栄養投与を6時間中止、再開時には50%減らした速度
 ・胃残量が既定値を超えるのが初回でなければさらに6時間の中止時間を設ける

ざっとした患者特徴:
 ・平均60歳、80%が内因性疾患で10%弱が外傷
 ・APACHE2 19%(予測院内死亡率25%)、SOFA 7点
 ・経鼻胃管の太さは12Frが3−40%、ほとんどが12Fr以上
 ・栄養開始の中央値は入院して24時間後

結果:
 ・複合消化管合併症は200ml群63.6% vs 500ml群47.8%
  →複合項目のうち、胃残量イベントのみが主要因(42.4% vs 26.8%, p=0.003)
   嘔吐は有意差なし(14.5% vs 10.8%, p=0.31)
 ・投与された栄養量のトータルは7日目と12日目で区切ると、500ml群のほうが多い

個人的解釈:
 ・胃残量カットオフ200mlが肺炎や嘔吐を減らさず、カットオフ500mlが増やすこともない
 ・胃残量カットオフ200mlでも1週間目で処方栄養量の8割は投与されており十分
 ・メトクロプラミドをルーチン投与しない施設での外的妥当性は不明


CRICSグループの研究
対象:
 48時間以上の人工呼吸器管理が必要になると予想され、挿管後36時間以内に経鼻胃管から経管栄養を投与された、ICU入室した成人

比較:
 経管栄養を中止する胃残量を250ml vs そもそも胃残量を確認しない

その他の介入:
 ・栄養投与は持続投与で開始、目標は最初の1週間で20−25Kcal/kgを達成するプロトコル
 ・胃残量は50mlシリンジで用手吸引で6時間毎に確認、吸引量が250ml以下であれば戻す
 ・250ml以上吸引できれば、破棄してメトクロプラミドを投与開始したうえで同量継続
 ・6時間後に再度250ml以上の胃残量があれば、投与量を25ml/hr減らす
 ・胃残量を確認しない群では嘔吐の有無だけモニタリング
 ・手技(咽頭操作など)に伴う嘔吐はノーカン
 ・両群とも、ヘッドアップ30度を実施、クロルヘキシジンでの口腔内洗浄を6−8時間毎

ざっとした患者特徴:
 ・平均60歳、90%が内因性疾患
 ・SAPS2 50(予測院内死亡率45%)、SOFA 8点

結果:
 ・VAP発生率は修正ITT解析で見ない群 16.7% vs 250ml群 15.8%
     (差 0.9%, 90%CI 4.8-6.7%,p=0.8)
 ・修正ITT、Per protocol解析ともに、みない群で嘔吐の発生が多い
   修正ITT 39.6% vs 27%, OR=1.86, 90% CI 1.32-2.61
   Per protocol 41.8% vs 26.5%, OR 1.93, 90% CI 1.36-2.75
 ・250ml群で腸管不耐症と腸管蠕動促進薬の使用割合が高く、目標カロリー達成率が高い

個人的解釈:
 ・目標カロリーが高いといっても差は100Kcal程度であるので、色々やって嘔吐減って100Kcal増えて、それ以外のアウトカムは変わらないという試験。
 ・嘔吐で怖いのはVAPで、その発生率が変化ないのは良いことだが流石に40%近い嘔吐が発生しているとあまりいい気分はしないが、この重症度でICU滞在期間やハードアウトカムが変わらないことを考えると、胃残量を測定しないのはFairであるように思う。

胃残量確認のプロトコルが実際どうなっている?

ESPENのガイドラインでは具体的に胃残量をどれくらいの頻度と期間測定するのか記載がない(Clin Nutr . 2019 Feb;38(1):48-79.)。GRVの継続的な測定は必ずしも必要ではない可能性がある”としつつも、その後の文面を見ると経管栄養を開始して48時間はモニタリングしつつ、胃残量>500mlならば消化管蠕動促進薬を使用しつつモニタリング継続、という感じである。

世界的にはバラけているよう。
トルコとベルギーのNs832名を対象にしたアンケートでは(Nurs Crit Care . 2018 Sep;23(5):263-269.)…
測定頻度:4時間毎、6時間毎、8時間毎、12時間毎できれいに20%ずつ
多量の基準:50〜250mlで半分、250ml以上で半分

【コメント】

・個人的には、胃残量は”確認しなくてもいいけど、なんとなく確認していないと気持ち悪いと思う人がいるパラメーターである”と認識している。JAMAに則って、250mlを超えていれば残量破棄して同じ速度で経管栄養を継続、それ以外では戻して経管栄養を継続で丸く収めていた。

まあやるなら切りよく毎食前にするか、あるいは朝夕で250〜500ml?。目標カロリーに達しないと悩んでいる施設なら辞めちゃうのも手。辞めた前後比較でも大丈夫、労務へったで、という報告もちらほら(Crit Care Nurse . 2022 Aug 1;42(4):e1-e10.、Crit Care Nurse . 2024 Feb 1;44(1):34-44.  )

・ICUに歴史あり、で過去に嘔吐→誤嚥で大変な目にあったことがある施設なら”なんかあったらどうするんですか!!!!”といって辞めるのが難しいかもしれない。そのロジックで行くと、無限に仕事が増えていくことになるような…非常勤とはいえ歴史も無視できないので、困っている栄養士とタッグを組んでやんわり誘導していこう

 【参考文献】

Montejo JC, Miñambres E, Bordejé L, et al. Gastric residual volume during enteral nutrition in ICU patients: the REGANE study. Intensive Care Med. 2010;36(8):1386-1393. 

Reignier J, Mercier E, Le Gouge A, et al. Effect of not monitoring residual gastric volume on risk of ventilator-associated pneumonia in adults receiving mechanical ventilation and early enteral feeding: a randomized controlled trial. JAMA. 2013;309(3):249-256.


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