グレードエーが来ます
グレードA対応のアセスメント
グレードAとは30分以内(ただし30分が訴訟になるようなルールとしては公的なものではない)に帝王切開で胎児分娩を行う必要がある状態のことであり、海外の文献ではGrade 1と記載される。
全身麻酔の際は解剖学的に気道確保が困難であり、低酸素→母体死亡のリスクがある。
実際、挿管が難しい症例が20〜50例に1件、挿管が実際に失敗する症例が300〜800例に1件。
よって、まずは本当に全身麻酔なのか(腰椎麻酔では困難なのか)?を検討する。
グレードAに対する全身麻酔の実際フローとその補足
(0.落ち着く。そして移動してパソコンを立ち上げる合間に自施設のフローを確認する)
1.血液型を確認して、輸血を確保しておく
危機的出血の際にはHb7-8g/dL、フィブリノゲン150-200mg/dL、血小板5万以上が目標
2.挿管の準備
挿管困難なリスクが高いため、挿管の手練に声を掛ける
ビデオ喉頭鏡を使用、最もやり慣れた方法で挿管を行う
可能な限りのバックアップを準備する
薬剤:
チオペンタール+サクシニルコリン:好まれる方法らしい
(が、サクシニルコリンが現実的ではない)
ケタミン+エトミデート:エトミデートは日本にない
プロポフォール:入手しやすい、術中覚醒に注意
ミダゾラム:胎児に影響でるため急速導入時には使用しない
健忘効果を期待して娩出時からは使用してもいいかも
オピオイド:急速導入時には胎児に影響出るため使わないが、娩出時から開始
妊娠高血圧腎症または心疾患がある母体では急激な血圧変動抑制に使用OK
レミフェンタニル0.5~1μg/kgは新生児に臨床的に有意な有害作用ないが、
5分アプガースコアの有意な低下を引き起こす可能性あり
ロクロニウム:胎盤を通過しないため、RSIなら準備
H2BまたはPPI:覚醒時の胃酸誤嚥予防
エフェドリン:徐脈にはなりにくいが、一過性血圧低下の第一選択薬ではない
自分は使い慣れない
フェニレフリン:反射性徐脈になるが、一過性血圧低下の第一選択となる
トラネキサム酸:大量出血が発生した場合には1g静注
3.左側臥位にしつつラインを確保する:大動脈の圧迫予防目的
その隙にAMPLE病歴を聴取
(が、ベッド移動した直後から腹部へイソジンぶっかけで、左側臥位になることはない)
4.挿管実施
チオペンタールなら4mg/kg、プロポフォールなら1−2mg/kgを使用
(チオペンタールは前向きコホートで導入期覚醒のリスクという指摘あり)
ヘッドアップ30度:妊娠後期は機能的残気量が40%減少する
前酸素化:妊娠後期は酸素消費が20%増加しており低酸素になりやすい
甲状軟骨圧迫:20〜40Nの力で行うらしい
5.挿管してから手術が始まる
6.挿管後に胃管を挿入して胃内容物を出しておく
→抜管時の誤嚥予防
7.麻酔の維持:
セボフルラン:用量依存性に子宮筋弛緩作用ある
80%の妊婦において、皮切〜児娩出までBIS<60を保つ濃度は1.2~1.3%と報告あり
プロポフォール:血圧注意
→麻酔深度が深いことで胎児に悪影響がでるというエビデンスはない
新生児科医と情報を共有する
8.セファゾリン投与
9.胎児分娩後にオキシトシン5U投与
10.手術終了
スガマデクス:母乳へ移行は少ないと想定されている
11. 合併症対策
抜管後の気道閉塞・低換気による死亡があるため慎重なモニタリング
疼痛:全例アセトアミノフェン
尿量低下:妊娠高血圧腎症では体液量に関係なく尿量低下が起こるため、体液量評価
コメント
・自分は麻酔科医でないため、このワードが来ると震えます。なんせ、挿管困難症例はかなりの割合である。万が一にも、DAM症例に当たったら破滅的な結果は免れない…。そもそも、超緊急時には非麻酔医が全身麻酔を行います、なんて周知された施設は皆無だろう。
・遭遇する可能性があるのは、夜勤で麻酔科オンコールがすぐ来ない or オペ室がいっぱいでERで緊急開腹の2パターン。いずれの2パターンも遭遇したが、カンペでもいいから事前に流れを把握しておかないといけないなと痛感。あと、全身麻酔ありきで話が進んでいく現場の雰囲気が凄まじく、腰椎麻酔の進言は難しいことがあるかもしれない。
・甲状軟骨圧迫をする必要があるのか…?人生で1回もしたことはない。ご高齢の先生がやっているのを見たことが1度だけある。10ニュートンの力の入れ方なぞ、わからない。観察研究では効果なさそうであるが(Int J Obstet Anesth . 2009 Apr;18(2):106-10.)。
・これで、産婦人科医に「お願いしまーす」といわれたら、挿管してくれ、という意味だった。こっちも(手術)お願いしまーすと返事して突っ立っていることはないね。
参考文献
Levy DM. Emergency Caesarean section: best practice. Anaesthesia. 2006;61(8):786-791.
Alan McGlennan, Adnan Mustafa, General anaesthesia for Caesarean section, Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain, Volume 9, Issue 5, October 2009, Pages 148–151,
Delgado C, Ring L, Mushambi MC. General anaesthesia in obstetrics. BJA Educ. 2020;20(6):201-207.
Prior CH, Burlinson CEG, Chau A. Emergencies in obstetric anaesthesia: a narrative review. Anaesthesia. 2022;77(12):1416-1429.
中野 由惟. 緊急カイザー,「全身麻酔でお願いします!!」 : 超緊急帝王切開を安全に行うために必要なポイント. LiSA = リサ : Life support and anesthesia : 周術期管理を核とした総合誌. 28(11):2021.11,p.1110-1115.
日本麻酔科学会 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第4版 Ⅸ 産科麻酔薬
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