【ACLFの診断】
各学会で定義が微妙に異なるが、以下3つを満たせば診断としてよさそう。
1.慢性肝疾患がある(肝硬変に至っているかを問わない)
2.採血でPT-INR延長+総ビリルビン上昇
3.臨床像として臓器障害がある
これらスコアが高い患者では、短期的死亡が予測される。
後ろ向き研究によれば、48時間の集中治療にもかかわらず、CLIF-CACLFスコア≧70では集中治療を続けることは無益である可能性が示唆されている。
【By system memo】
神経:
・抜管までの時間を短縮するために、他の使用可能な薬剤と比較して、デクスメデトミジンの使用を提案する
・最適な治療にもかかわらず、脳の状態や呼吸不全のために機械的換気を必要とし続ける肝硬変およびACLF患者では、死亡率を改善するう目的で肝移植リストへ載せないことを提案する
・精神状態の変化を伴う肝硬変患者に対しては、以下の4つのステップを同時に実施する必要がある。1. 誤嚥性肺炎を防ぐための気道管理、2.肝性脳症であるかどうかの確認(必要に応じて他の原因の検索)、3.原疾患の治療、4.肝性脳症に対する経験的治療
循環:
・HESは使用しない。
・ALFまたはACLF患者の蘇生に、血清アルブミンが低い(<3mg/dL)場合、他の輸液よりもアルブミンを使用することを推奨する(条件付き推奨、低質エビデンス)
→敗血症性ショックを対象にした研究(ALBIOS study)では、登録時に敗血症性ショックの患者で血清レベルが3mg/dL以上になるようにアルブミン補充することで死亡率が低下していた(RR 0.87, 95% CI 0.77-0.99)ことが1つの根拠。
・平均動脈圧(MAP)65mmHgを1つ目標とするが、個別化して考えても良い。
・輸液による蘇生を行っても低血圧が続く患者、または輸液による蘇生を行っても重度の低血圧と組織低灌流が続く患者には、ノルエピネフリンを第1選択薬として使用する。
・バソプレシンは第2選択薬として使用する。
→肝硬変患者(n = 84)を含む唯一の研究では、バソプレシンによって指尖部虚血率が上昇した(28.6% vs 9.5%; RR, 3.00; 95% CI, 1.05-8.55)ことが根拠。
呼吸:
・ALFまたはACLFでARDSの患者には、低1回換気量戦略を用いることを推奨する
・ALFまたはACLでARDSの患者では、(ARDS net protocol)高PEEP戦略を使用しないことを推奨する
・門脈圧亢進症における肺動脈圧亢進症治療の使用について、平均肺動脈圧が35mmHgを超える患者には、肺動脈性肺高血圧症に承認されている薬剤で門脈肺高血圧症を治療することを提案する(条件付き推奨、非常に低質なエビデンス)
→この知見は門脈肺高血圧症以外の肺高血圧症患者から得られた研究結果を外挿したものである。門脈圧が亢進すると、1型肺高血圧症を合併する(門脈肺高血圧症)。通常の肺高血圧症よりも予後が悪い。門脈肺高血圧症患者を対象としたRCTでは、マシテンタンが12週間後の肺血管抵抗を改善し、安全であることを示したものが1件のみ(Lancet Respir Med, 2019; 7:594–604)。
・ 肝肺症候群の治療には、肝移植の可能性を考慮し、酸素補給による支持療法を推奨する。
→肝肺症候群は血管拡張による肺内シャント増大が主病態である。VQミスマッチやシャントによる低酸素血症をきたす。唯一の治療は肝移植。あとは小規模研究のみ。そのうちユニークなのは20 人の HPS 患者を対象とした 1 つの小さな RCT で、経口ニンニク補給が有効とした研究(Can J Gastroenterol 2010; 24:183–188)。ニンニクがマクロファージでのNO合成を阻害する、という仮説らしい。重度の低酸素症は肝移植後早期(24時間未満)にHPS患者の6-21%に発生し、45%の死亡率をもたらす。この場合、トレンデレンブルグ体位、吸入エポプロステノール、吸入NO、メチレンブルーの静脈内投与が支持療法として提案されている。
・経頸静脈肝内門脈大循環短絡術(TIPS)が選択できない患者や緩和的目的で、肝性胸水に対して胸膜癒着を行うために胸腔チューブを挿入することを推奨する
→肝硬変患者の4%~6%が肝性胸水を発症する。一般的な内科的管理は塩分制限と利尿剤だが、再燃してくる場合に効果的な治療はTIPSであり、55.8%で完全奏効、17.6%で部分奏効とされる。しかし、TIPSの最大の問題点は肝性脳症を合併しやすいことである。そこで症状緩和または肝移植までのつなぎとして胸腔ドレーンを使用した胸膜癒着術が検討される。本来は過剰体液喪失や電解質喪失のため胸腔ドレーン留置は相対的禁忌とされているが、ガイドラインでは解除困難であれば”施行は妥当”としている。奏効率は50%程度と考えられる一方、感染率は2.3%(非癌性胸水患者のメタ解析から得た数字、95%CI 0-4.7%)と高い。
・低酸素状態の重症患者には、NIVよりもHFNCの使用を推奨する。高CO2患者では、HFNCよりもNIVまたは侵襲的機械換気を使用することがより適切である場合がある。
・機械的換気を使用している場合、人工呼吸器管理期間の短縮や死亡率改善の目的で予防的抗生剤を使用しないことを提案
消化管・栄養:
・ALFまたはACLFの患者には、肝不全のない重症患者と同等の蛋白質目標(1.2-2.0g/IBW/day)を提案する。
・ALFまたはACLFで入院している、経腸投与に耐えられる重症患者には分岐鎖アミノ酸(BCAA)を使用しないことを推奨する。
・経腸栄養の禁忌がなくALFまたはACLFで入院している重症患者には、非経口栄養(PN)よりも経腸栄養(EN)を推奨する
腎・電解質:
・ALFでAKI患者には、早期にRRTを使用することを推奨する(条件付き勧告、非常に低質なエビデンス)。ACLFの集団に対して推奨を出すには十分なエビデンスがない。
→ここでいう早期とは、BUN80mg/dL(後ろ向き研究で、死亡率が少ない、任意に設定された数字)。
・肝腎症候群(HRS)を発症したACLFの重症患者には、血管収縮剤(テルリプレシン、ノルアドレナリン、ミドドリンおよびオクトレオチドのいずれか)の使用を推奨する(強い推奨、中程度の質のエビデンス)
→HRSでは全身血管拡張+腎動脈収縮によって急速に腎前性AKIが発症する。治療は肝移植。薬剤ではアルブミンと血管収縮薬。最も研究されているのがテリプレシンとノルアドレナリンで、どちらが優れているかは結論が出ていない(研究上はテリプレシンが良いとするものあり)。
・HRS予防のためのTIPSについては推奨を出す十分な証拠がない。
・HRS-AKIとそれに続く臓器不全を予防するために、SBP患者には抗生物質に加えてアルブミンの使用が推奨される。
内分泌・代謝:
・ALFまたはACLFの患者では、血糖値を110-180mg/dLに設定することを推奨する。
・ALFまたはACLF患者における敗血症性ショックの治療で、輸液蘇生と血管収縮剤で血行動態の安定を回復できない場合、ストレスドーズの糖質コロイドを使用することを推奨する。
血液:
・PT-INR、血小板数、フィブリノゲンの測定よりも血液粘弾性検査(ROTEM)の使用を推奨する(条件付き推奨、低い質のエビデンス)。
→肝硬変患者では、腹水穿刺(0-3.3%)や胸腔穿刺(2%)の出血率は低い。出血は血小板数またはINRと相関がない。肝臓手術後の出血のリスクは、凝固パラメーターよりもむしろ手術や止血のテクニックと相関していると思われる。ROTEM使用にて、標準検査との比較で、輸血は有意に減少し(RR 0.18, 95% CI 0.08-0.39)、出血性合併症 (RR0.33)や 90日死亡率 (RR 1.14)の増加は認められなかった。
・7mg/dLの輸血閾値を提案する。
→肝硬変患者では内因性エリスロポエチンレベルが上昇し、門脈圧亢進の程度に関係することが知られている。外因性エリスロポエチンが血栓形成と血小板活性を誘導することを考えると、輸血が血栓症の悪化に関与している可能性がしてきされている。例えば、肝移植患者では赤血球輸血が独立した死亡リスクである。
・門脈血栓症や肺塞栓のある患者では、VKAまたは低分子ヘパリンの使用を推奨する。
→肝硬変患者では血栓塞栓症のリスクが高く、肝移植を待っている患者の門脈血栓症(PVT)発生率は年間8%と推定されている。
・ACLFの入院患者における静脈血栓塞栓症の予防には、空気圧式圧迫ストッキングよりもLMWHを使用することを推奨する。
・手術/侵襲的処置の前にエルトロンボパグを使用しないよう推奨する。
・肝硬変およびACLF患者では、死亡率改善のために顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を使用しないことを提案する。
その他:
・アルブミン≧3g/dLを維持する目的で連日アルブミン投与しないことを推奨
→感染、腎機能障害、死亡のコンポジットアウトカムは改善せず、肺水腫および呼吸器感染症が発生率が増加
・ALFまたはACLFの患者に対して、薬物による肝不全の原因についてスクリーニングすることを推奨する。ALFまたはACLFの原因であることが証明されている、または強く疑われている薬剤は中止すべきである
・ 人工肝臓支援システムは、理論的には肝臓の機能の一部を代行することができるが、臨床的な利点があるかどうかはまだ不明である。血漿交換は急性肝不全患者の生存率を向上させることが示されているが、ACLFにおけるその効果は不明である。
・ALFまたはACLFの患者では、患者の残存肝機能に基づき、入手可能な最善の文献を用いて、肝代謝を受ける薬剤の用量を調整することが推奨される。利用可能な場合は、臨床薬剤師に相談すること。
【コメント】
・経験的には、BCAAの出番はICUでほぼない。唯一、羽ばたき振戦ある患者の意識障害において、一応意識障害の原因は肝性脳症だよねというのを確認するために点滴で500mlを使用することが、稀にある。だが、輸液500ml入るのが気になる点と、結局意識が戻っても本人の価値観を聴取できるほどに改善する例は少ない印象。ラクツロースが入っていれば、BCAA追加投与で上乗せ効果もない(2017年のCochrane Review)。
・ROTEMが推奨されているものの、本邦では使えば使うほど病院赤字を引き起こす代物である。こういった検査は、よほど潤沢な病院でなければ普通使用されない。
・肝不全患者の薬剤投与はかなり神経質になる必要がある。透析が始まりだすと、もはや薬剤の投与設計は手に負えない。自分は完全に守護神こと、ICU専属薬剤師に依存。患者にとってもそのほうが良さそう。
【参考文献】
Nanchal R, Subramanian R, Karvellas CJ, et al. Guidelines for the Management of Adult Acute and Acute-on-Chronic Liver Failure in the ICU: Cardiovascular, Endocrine, Hematologic, Pulmonary, and Renal Considerations. Crit Care Med. 2020;48(3):e173-e191.
Bajaj JS, O'Leary JG, Lai JC, et al. Acute-on-Chronic Liver Failure Clinical Guidelines. Am J Gastroenterol. 2022;117(2):225-252.
Engelmann C, Thomsen KL, Zakeri N, et al. Validation of CLIF-C ACLF score to define a threshold for futility of intensive care support for patients with acute-on-chronic liver failure. Crit Care. 2018;22(1):254. Published 2018 Oct 10.
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