神経集中治療のニヒリズム
【話題になった論文】
Hemphill JC 3rd, White DB. Clinical nihilism in neuroemergencies. Emerg Med Clin North Am. 2009;27(1):27-viii. doi:10.1016/j.emc.2008.08.009
【内容】
・脳神経関係のICU患者の予後は、脳神経医の(◯◯だったら、✗✗程度の予後しかないだろうという)”ニヒリズム”によって規定されてしまうが、それは有効な戦略ではないという話。
本文:
・多くの場合、臨床医は特定の公式な予後予測モデルではなく、経験や医学文献の知識、臨床的直感に基づく自分の印象に基づいて予後を判断している。この非公式な予後予測法は、まさに医師個人そのものが内面化した予後予測モデルであると思われる。しかし、この非公式な方法が正確で一貫したものであるかどうかが中心的な問題である。さらに、最近の研究では、予後予測の不正確さやばらつきが、予後不良の自己成就的予言につながるのではないかという懸念が提起されている。
・同様に、外傷性脳損傷についても、早期に正確な予後を予測する能力が疑問視されている。Kaufmannは、重度のTBIを受けた100人の連続した患者を評価し、1日目に予想される予後が正確であるかどうかを調べる研究を行った[46]。興味深いことに、経験豊富な脳外科医が良好な1年後の予後を過小評価し、不良な予後を過大評価することが明らかになった。注目すべきは、経験豊富な神経放射線科医はその逆で、良好な転帰を過大評価し、不良な転帰を過小評価していたことである。著者らは、重症頭部外傷では、少なくとも一方的な治療制限を目的とした管理の指針となる十分な精度で、初日の転帰を確実に予測することは不可能であると結論づけた。
・私たちは、急性神経救急の現場で、患者の自律性を奪ってケアを拒否したり強制したりする方法としてではなく、早期に患者や家族との共同意思決定を支援するために予後情報を使用することを強く支持する。これには通常、予後予測に内在する不確実性を説明すること、さらにはそれを受け入れることが含まれる。
【コメント】
・脳神経外科医の忙しさは尋常ではないと思う。外来、手術、術後管理、病棟管理、退院転院の準備、家族への説明、研究、教育…明らかに人が足りておらず、家庭の時間を犠牲にしている。そんな彼らにニヒリズムになるな、というのは無理であろう。
・脳神経外科に限らず、全ての医師に起こりうる事象で他人事とは思えない。本文にも、集中治療医や看護師がニヒリズムに陥り、治療制限につながる論文が提示されている。
・集中治療医にできそうな対策は、ニヒリズムに陥らないようにお互いの監視、対話を通じてメタ認知を促す、教育、他科の仕事をタスクシフトとして受け持つ(術後管理)あたりだろうか。
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