蘇生時のリーダーシップ
【内容】
・リーダーには2種類ある。どちらが優れているかは状況次第で変化する(1)。
Directive型:指示型。いわゆる軍隊方式。タスクがシンプルで速やかな決断を要し、チームの経験が浅く、患者が重症な時に有用。
Empowerment型:権限移譲型。リーダーは責任をメンバーに委譲して意思決定させ、リーダーはチームのコミュニケーションと調整に専念。Directive型とは逆の場面で有用。
・チームにはヒエラルキーが存在する。我々は生来、職業、性別、人種といった要因を利用して、他者がどれほど有能であるかを判断している。このようなヒエラルキーは、情報交換や行動の障壁となり得るため、蘇生にとって重要である(看護師が自分を地位の低いチームメンバーだと認識すると、能力が高いにもかかわらず、その状況における自分の行動の正当性が疑われるため、行動を起こしにくくなる可能性がある)。ヒエラルキーは情報のオープンフローを妨げることになりかねない。声に出して考え、定期的にデータを見直し、具体的な発見を口にすることで情報をオープンに共有した医療従事者は、より優れたパフォーマンスを発揮することが明らかにされている(2)。
・先行研究でチームパフォーマンスと関連があった3つの要因は心理的安全性、トランザクティブメモリー、リーダーシップ(3)。
心理的安全性:質問する、助けを求める、ミスを報告する、懸念を表明する、提案をするなどの対人的に危険な行動が職場環境で支持されている(これらの行為を行っても恥だと感じない)、と個人が認識する度合いを指す。リーダーはまず自分の失敗を認めることが強力に、心理的安全性を提供する。
トランザクティブメモリー:グループレベルの記憶システム。チームメンバー間で知識 の責任分担を行い、「誰が何を知っているか」「誰が何をするか」 という認識が共有されていること。トランザクティブメモリーは、学んだことがネガティブなものであれば、チームの有効性を損なう可能性があることに留意する必要がある。リーダーは、(たとえ自分が答えを知っていると思っていても)チーム内の他の人の観察や視点を積極的に引き出すべきである。患者のベッドサイドの看護師が自分の意見や提案を伝えなかった場合は、「何か見逃していることはないか」と尋ねるだけでよい。このテクニックはトランザクティブメモリーの形成や心理的安全性を提供する。
リーダーシップ:チームリーダーがどのようにチームを構成し、目的を定め、 組織的な障壁を取り除き、個々のメンバーがチームへの貢献度 を高めるのを支援し、メンバーがチームの目標を達成するために集 積したリソースを活用できるようコーチングを行うか、これらはすべてチームの成功に影響を与える。集中治療では、学際的な回診が基礎である。回診ではチームの議論を支配する必要はなく、心理的・論理的な安全性を培い、その結果、肯定的な相互作用の記憶を促進する。チームラウンドは少し時間がかかるが、日常ケアと緊急ケアの両方に良い影響を与えるので、時間を有効に使うことができる。
・リーダーシップとマネジメントスキルは、集中治療専門医の「必須項目」に挙げられているが、教育方法と評価の詳細は、正式に発表されたカリキュラムには目立って含まれていない。非医学的管理能力は、物理的な設備から、職員の質と分野構成、毎日のケアや蘇生処置の複雑で協力的な振り付けに至るまで、重症患者管理のあらゆる特徴に影響を与えることが可能である。おそらく最も重要なことは、これらのスキルによって、継続的なパフォーマンスの改善と患者の安全性を受け入れる「文化」を持つ、十分に関与し、権限を与えられたチームを促進することができるということである。ICU管理の包括的原則は、すべてのチームメンバーが尊重され、参加する力を与えられたと感じる文化を構築することである。チームメンバー全員が、ICUに入室するすべての患者に対して共通の使命を持たなければならない。すなわち、患者が健康への軌道に乗ってICUを去ること、または尊厳ある死を迎えることである(4)。
・トレーニングを受ければ、リーダーシップは性別を問わない。2施設後ろ向き研究ではあるが、心停止蘇生蘇生に立ち会ったコードリーダーは女性医師は、男性医師と比較して蘇生が高く(OR1.36、95%CI、1.01-1.85、p = 0.049)、退院時生存が高かった(OR1.53、95%CI、1.15-2.02、p < 0.01)。また、コードリーダーの性別は心肺蘇生法の質とは関連がなかった(5)
【コメント】
・事態が緊急のときには、指示的リーダーとなる必要がある。指示的リーダーになる際には、手技を行うプレイヤーとして参入してはならない。また、リーダーとなる前提として、トランザクティブメモリーの育成のため、普段から日常回診を通して心理的安全性を高めておくことが必要である。
・リーダーシップとして現場での振る舞い方を最初に教えるときは、 1)自分が何をするか、他の人が何をすべきかを伝達する 2)何を行うか決断する 3)短く明確に、部屋に向かって述べる 4)治療アルゴリズムを遵守することを教えておく。
・蘇生のリーダーになった時には大なり小なりパニックに陥る。個人的には、①治療目標、②原因に対する検索、③発生した結果に対する対応、の3つは常に回帰している。ここまでできて普通のリーダー。より良いリーダーとなるには、④プランBを持っておく、⑤入手可能なリソースを把握しておくということが重要だと思う。
【参考文献】
1)Ford K, Menchine M, Burner E, et al. Leadership and Teamwork in Trauma and Resuscitation. West J Emerg Med. 2016;17(5):549-556.
2)Hunziker S, Johansson AC, Tschan F, et al. Teamwork and leadership in cardiopulmonary resuscitation. J Am Coll Cardiol. 2011;57(24):2381-2388.
3)Manthous C, Nembhard IM, Hollingshead AB. Building effective critical care teams. Crit Care. 2011;15(4):307. Published 2011 Aug 12.
4)Manthous CA, Hollingshead AB. Team science and critical care. Am J Respir Crit Care Med. 2011;184(1):17-25.
5)Meier A, Yang J, Liu J, et al. Female Physician Leadership During Cardiopulmonary Resuscitation Is Associated With Improved Patient Outcomes. Crit Care Med. 2019;47(1):e8-e13.

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