集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

ICUのカテコラミンまとめ

2022年9月4日  2022年10月14日 

 【概要】

・カテコラミン=血管収縮薬(vasopressor)+強心薬(inotrope)
・カテコラミンを使用する目的:効果的な組織灌流を回復し、細胞代謝を正常化すること
 血管収縮薬のエンドポイント:動脈圧(最初はMAP60-65mmHgを目標、個別化可能)
 強心薬のエンドポイント:心拍出量(数字はなく、個別化する)
 動脈圧や心拍出量の個別化には組織灌流のモニター項目を用いる
 →単一の指標はなく組み合わせる(例:ScvO2 + PvaCO2gap + 乳酸 + 皮膚灌流)

【血管収縮薬】

・ノルアドレナリン(使用量:0.01〜3.3μg/kg/min、上限はない)
 強力な αアドレナリン作動薬と、わずかなβ-アドレナリン作動薬
 α受容体がダウンレギュレートしていることがあるため使用量に幅がある
 →増量により昇圧作用が得られるならば使用量に上限なし
 血管収縮により平均動脈圧は上昇する
 心拍出量と一回拍出量はわずかに(10-15%)増加する
 充填圧(LVEDP)は変化しないか 、わずかに上昇する (1-3 mm Hg)
 0.3μg/kg/min未満なら、経管栄養を止める必要なし
 中心静脈なくとも末梢から投与しても(数時間は)問題になることはない
 長期投与は、プロテインキナーゼAの活性化と細胞質のCa2流入量の増加を介してアポトーシスを誘導することにより、心筋細胞に直接的な毒性作用を及ぼす可能性がある他、免疫抑制作用なども指摘されている。実臨床で体感されることはあまりない。

・ドパミン
 容量により作用が異なる
 5μg/kg/分以下:ドーパミン作動性受容体が優勢、腎臓・腸間膜の血管拡張をひき起こす
 5~10μg/kg/:β1-アドレナリン作用が優勢、心収縮力と心拍数が増加
 10mg/kg/分以上:α1-アドレナリン作用が優勢、動脈血管収縮と血圧が上昇
 ノルアドレナリンとの比較(SOAP2試験)で、総死亡は有意差なし、不整脈が増加

・アドレナリン(使用量:0.05〜0.2μg/kg/minくらい)
 強力なα、βアドレナリン作動薬
 心係数(1回拍出量と脈拍)と平均動脈圧を上昇させる
 酸素供給量を増やすが、酸素需要も増やすかもしれない
 乳酸値は上昇するが、末梢血管収縮→灌流障害or酸素需要の増大が原因かは不明
 腸管循環を低下させる懸念がある(ノルアドレナリンよりも腸管循環を悪化させる)
 ショック患者を対象にした研究(n=330)では、ノルアドレナリンと比較して28/90日死亡は変化なかったが、アドレナリン郡の13%が乳酸アシドーシスと頻脈のため脱落

・フェニレフリン(使用量:0.5〜9μg/kg/min)
 α1選択的作動薬
 血管収縮作用のみで、平均動脈圧を上昇させる
 脈拍数は減少し、心拍出量はわずかに減る
 敗血症性ショックを対象にしたノルアドレナリンとの比較は小規模で結論でない(n=32)

・バソプレシン(使用量:0.03U/min、半減期30分)
 敗血症性ショックでは合成障害と枯渇により相対的欠乏が生じるので、生理的補充量を投与
 V1受容体を介して直接血管平滑筋を収縮させる
 肺動脈にV1受容体がないため、バソプレシンは肺血管抵抗を増加させない
 カテコールアミンに対する血管系の反応性を増大させる
 →カテコールアミンに低用量のバソプレシン(0.01~0.04U/min)を追加すると、カテコラミン不応性の敗血症性ショック患者の血圧を上げることができ、必要量を下げることができる

【強心薬】

強心薬=心拍出量を上げる薬剤。
よって心原性ショックに対して、心拍出量をモニターしながら使用する。
ただし、問題解決をする薬剤ではない。根本的な原因が解決するまでのブリッジとして使用。
ルーチンに心拍出量をあらかじめ決められた「正常」レベルを超えて増加させても、転帰は改善しないので個別化する(CI2.2超えることを目標にしない)。

・ドブタミン(使用量:3〜20μg/kg/min、実際には10γ以上必要なら別の手段を考える)
 β1受容体の刺激による強心作用が主、β1受容体:β2受容体に3:1で結合
 β2受容体への刺激作用で血管拡張を起こすため、心拍出量増加と相殺して血圧上昇に対しては期待できない(〜15γ程度までは相殺効果が続く)
 心筋の拡張能の改善効果もある
 難点は心筋酸素需要を増大させる、催不整脈作用、数日で耐性ができる(〜72時間程)

・ミルリノン(使用量:0.375〜0.75μg/kg/min、実際には0.2γ〜様子を見る、半減期2-4時間)
 細胞内のサイクリック AMP分解を阻害して増加させる→筋収縮力増加
 他の強心薬よりも変時作用や不整脈誘発作用が少ない傾向がある
 心臓充填圧と肺血管抵抗を減少させ、肺動脈高血圧合併患者では有益かもしれない
 血管平滑筋細胞のサイクリックAMPの増加は血管拡張を引き起こし、低血圧を悪化させる可能性がある

・レボシメンダン
 心筋細胞のカルシウム応答性を高める(強心作用)
 ATP依存性カリウムチャネルを開く(血管拡張作用)
 レボシメンダンは心筋の酸素消費量を増加させないという特徴がある
 半減期が長く、5〜7日作用が残存する
 小規模研究ではドブタミンよりも血行動態上の効果が優れていることが示唆されているが、心原性ショックでも急性心不全でもレボシメンダンの使用による生存効果は証明されていない

【コメント】

・ドパミンが救急カートから一掃されてから久しく感じる。もはや使い方が思い出せない。不整脈が増加するという合併症がなかったとしても、漸減する時に効果が変わる薬剤は使用しにくい。
・アドレナリンは敗血症性ショックの3rd lineとして使用することはあっても、使用して生存した人を見たことがない。小児の心筋炎などで使用されるの目撃する程度。
・フェニレフリンはここぞで使用する隠れた助っ人。特に心臓術後やタコツボ心筋症などで起こるSAMの時や、挿管時の血圧低下など。意外と役立つ場面がある。徐脈はほぼ気にならない(頚椎損傷患者の挿管時など落とし穴は存在する)。
・ミルリノンは、血圧低下をよく目撃するので使いにくい印象。特に腎機能低下患者での蓄積性が問題となり、真っ先に切られやすい。心原性ショックではドブタミンと臨床的な差はなかったが(DOREMI試験:N Engl J Med 2021; 385:516-525)、CABG手術を対象にした後ろ向き研究では30日死亡率が増加していた(Crit Care. 2018; 22: 51.)。脳血管攣縮予防においても研究が行われそうな雰囲気だが(MILRISPASM試験:Neurocrit Care 2021;35:669–679)、あまり結果は期待できない。


【参考文献】

Hollenberg SM. Vasoactive drugs in circulatory shock. Am J Respir Crit Care Med. 2011;183(7):847-855. 

Legrand M, Zarbock A. Ten tips to optimize vasopressors use in the critically ill patient with hypotension. Intensive Care Med. 2022;48(6):736-739. 

De Backer D, Foulon P. Minimizing catecholamines and optimizing perfusion. Crit Care. 2019;23(Suppl 1):149. 

Overgaard CB, Dzavík V. Inotropes and vasopressors: review of physiology and clinical use in cardiovascular disease. Circulation. 2008;118(10):1047-1056. 


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