2022年10月9日
2022年10月14日
一時損傷:直接脊髄圧迫、出血、牽引力により発生。骨折はあってもなくてもよく、損傷部位によって異なる(報告によれば頸部脊損の56%、胸部脊損では100%、腰部脊損では85%に存在)。
二次損傷:受傷後数分以内に二次的損傷が始まる。中心灰白質に出血が生じ、軸索と神経細胞膜が損傷→脊髄水腫→持続すると脊髄虚血。神経原性ショックを合併していると、全身動脈圧の低下→脊髄低灌流→損傷部位の拡大が発生。
上記メカニズムのため脊髄の虚血が、数時間以内に損傷部位に沿って双方向に拡がりうる。特に最初の72時間以内に損傷レベルが上位に以降することがあり、臨床的悪化につながる可能性がある。
・一時損傷へ対応するのが整形外科的介入。入院期間や人工呼吸器装着期間は減少するが、損傷レベルは改善しない。
・椎体骨折に対する手術適応は、胸腰椎部の脊髄損傷であればThe Thoracolumbar Injury Classification and Severity Score (TLICS)を、C3-7頚椎の脊髄損傷であればSub-axial Injury Classification and Severity Scale (SLIC)を使用する。いずれのスコアも、1)骨折の形態2)支持組織の完全性(SLICではDLC、TLICSではPLC)3)および神経学的状態を評価している
・スコア<4は一般的に保存的管理が可能、スコア>4は外科的介入が望ましい、スコア4は一般的に外科医の個々の好みに基づく
・手術タイミングは外傷性中心性脊髄損傷に対して治療オプションとして受傷24時間以内の手術を提案(弱い推奨、低いエビデンス)し、レベルに関係なく脊髄損傷に対する治療オプションとして早期の手術を提案(弱い推奨、低いエビデンス)されている。後者については時間の記載がないが、これは過去の研究において”早期”の定義にばらつきが存在するためである。レビュー等では72時間以内と解釈されている様。
・ステロイドは死亡率上昇や敗血症発生率上昇との関連が懸念され使用されていない。
・ICU入室後は「二次損傷予防」と「脊髄損傷に関連する合併症の対応」が2本柱。
神経系:
・T6以上の脊髄損傷直後は、脊髄損傷レベル以下の反射の一過性の消失が認められる(Spinal Shock)。損傷レベルより尾側のすべての脊髄機能が生理的に失われ、弛緩性麻痺、膀胱直腸障害、反射喪失がみられる。男性では持続勃起症を発症することがある。
・頸動脈損傷および椎骨動脈損傷による血管狭窄、閉塞および解離を合併することがある。リスクはC1~C3を含む頸椎骨折、頸椎骨折亜脱臼、横隔孔に及ぶ頸椎骨折などである。一般的に、頚椎損傷に伴う鈍的脳血管外傷は脳卒中発症前に無症状期間があり、通常10~72時間と言われる(つまり潜在的に気づかれにくい)。
・自律神経失調症は通常、TSCIの後期の合併症である(1ヶ月以内の発生は珍しい)が、ときに入院中に出現しRRSが起動される。有病率は20〜70%。この現象は、頭痛、徐脈、顔面紅潮および発汗を伴う発作性高血圧が特徴である。直ちに患者を座位にし、速効かつ短時間作用型の降圧薬を使用する(例:ニフェジピン10mg内服など)。きっかけは尿閉や便秘である事が多く、原因を解除する。
・体温調節異常が頸髄損傷者で認める。これは病変部より下に汗 をかくことができないためである。体温は環境によって変化するため、体温調節が必要である。患者は熱放散ができず高体温になりやすく、低温環境下でも熱産生ができないため低体温症になりやすい。
・受傷1ヶ月以内に20〜45%の患者がうつ病を発生する。頻発するが、正常な反応として治療せずにそのままにしてはならない。早めに精神科コンサルトしてフォローする。
循環器:
・受傷直後はカテコラミン大量放出(高血圧と頻脈)→交換神経麻痺による神経原性ショック(血管拡張による低血圧±障害部位がTh5以上だと交感神経心臓枝も障害されて徐脈)
・歴史的コホート研究によれば最初の5〜7日はMAP≧85mmHgを保つことがより良い機能予後と関連(弱いエビデンス)。血圧低下の主体は血管拡張であるため、輸液抵抗性で血管収縮剤を使用する。神経原性ショックは24時間〜数週間持続する。
・受傷後〜2週間で徐脈が発生する。重症頸髄損傷では、気管吸引や気管支鏡などの迷走神経を刺激する手技時や体位変換時には、徐脈からの心停止が20%で発生するため間欠的なアトロピン投与が必要になることがある。膀胱の過拡張も徐脈を誘発するため、早期に尿道カテーテルを留置する。腎灌流の指標になる。持続勃起症がある場合には恥骨上膀胱カテーテルを検討する。
呼吸:
・T1以上の損傷は肋間筋の機能を失う(横隔膜依存)、C3-5の損傷は横隔膜の機能を失う。自然気道にて自発呼吸が保たれている様に見えても、72時間は厳重なモニターを行う。排痰機能障害や呼吸筋疲労にて人工呼吸器管理となることがある。
・高位頸髄損傷では座位よりも仰臥位の方が有利である。この理由は、座位だと横隔膜の運動幅が制限されるためである。具体的には、座位だと横隔膜が腹部内容物によって引き下げられた状態であり、さらなる吸気時伸展がしにくい。患者は受傷後最初の数日間は座ってはならず、肋間神経麻痺が進行して吸気時に胸が潰れなくなり、横隔膜の下降によって生じる少ない1回換気量が確保されるようになってから、徐々に座っていくべきである。
・高位頸椎(C3以上)の完全損傷の患者には、血行動態が安定した後すぐに気管切開を行うべきである。C4-6の損傷で人工呼吸器を離脱できるかどうかは患者によって異なる。C4-6の損傷患者に対して早期気管切開(受傷後7日以内)は、ICU滞在時間の短縮や喉頭気管合併症の減少など、明らかな利点がある。気管切開は、頸椎前方手術の前でも後でも安全であり、手術創の感染リスクを増加させないことが示されている。
消化管・肝・栄養:
・迷走神経活動の未反応が胃不全麻痺や麻痺性イレウスを引き起こすことがあり、脊損患者への栄養投与は、吐き気、嘔吐、誤嚥のリスクおよび腹部膨満を引き起こし、さらに呼吸を損なうことがある。経鼻胃管を挿入して減圧することでリスクを回避できる。
・嘔吐や誤嚥、麻痺性イレウスが無いことを確認し次第、腸管を使用した栄養投与を開始する。ただし、一般的には早期の経腸栄養は多発外傷患者の死亡率を低下させるため、患者が挿管されていれば24時間以内に栄養を投与する。
感染:
・尿道カテーテルの留置はUTIリスクになる。72時間以降で徐脈イベント等がなければ間欠的導尿への移行を検討する
予防:
DVT/PE
・致命的PEが3%に発生し、DVT非致死的PEは、それぞれ90%と10%である。
・脊髄周囲に出血する危険性があるため、最初の48~72時間は抗凝固薬の使用を制限し、代わりに間欠的なふくらはぎ圧迫装置または弾性ストッキングを使用する。
・72時間後以降は低分子ヘパリンの皮下注を行う(日本では保険適応がなく、未分画ヘパリンを使用せざるを得ない)
ストレス潰瘍
・迷走神経活動が阻害されると、胃酸が増加し、消化性潰瘍の発生率が上昇する。
・PPI/H2Bを6週間ルーチンで予防的に使用することにより、十二指腸潰瘍の発生率が20%から5%に有意に減少する
褥瘡
・適切なマットレス、除圧目的に体位変換(2−3時間毎のログロール)
リハビリ
・医学的に安定し、必要なリハビリの強度に耐えられるときにリハビリを提供する
・体重支持型トレッドミル訓練を、通常の地上歩行に加えて、リソースの利用可能性、状況、地域の専門性に応じて歩行訓練の選択肢として提供することを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)
・急性および亜急性の頸部脊髄損傷患者には、手および上肢の機能を改善するための選択肢として、機能的電気療法を提供することを提案する(弱い推奨、低エビデンス)
・明確な利益がないことに基づき、現在標準的なリハビリテーションに組み込まれている以上の、支持なし座位での追加訓練を提供しないことを提案する(弱い推奨、低いエビデンス)
補足:
・患者が許容されるのであれば慢性期に起こりうることや利用できる社会資源なども、急性期のうちから伝えておく必要がある
Stephen Bonner, Caroline Smith, Initial management of acute spinal cord injury, Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain, Volume 13, Issue 6, December 2013, Pages 224–231
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