集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

よりよいPEEPの決め方

2023年2月12日  2023年2月12日 
前提:
1.PEEPは「酸素化の改善」と「肺保護」のために存在する
2.最適なPEEP(Best PEEP)は存在しない、あるのはより良いPEEP(Better PEEP)である

【内容】

Step1 挿管直後はガティノニ法かARDS net(Lower PEEP)に従う

ガティノニ法:PF比で決める。PF300→PEEP5〜10、PF200→10〜15、PF100以下→15〜20
ARDS net(Lower PEEP):
ガティノニ法がおすすめ※。
理由は、ARDS netのプロトコルだとFiO2 1.0時にPEEP24が過剰である恐れがあるため。

※ガティノニ法は妥当なのか?
→臨床経験やメタ解析をに、ガティノニ先生が提唱している。外的妥当性があるか不明。注意点は、ARDSの極初期(Day1-4)にしか使用できないこと。

Step2 PEEPの有害性を確認する、具体的には低血圧と圧/容積による肺障害

高いPEEPによる血圧低下の原因は、心拍出量の低下。
 1.高いPEEP→右房圧上昇→静脈還流低下→心拍出量減少
 2.高いPEEP→肺血管抵抗上昇→有心機能不全→心拍出量減少 
開始レベルのPEEPが高ければ、下げてみて5〜10分後に血圧を評価
待っている間に心エコーを行い、右室機能(TPASE)と心拍出量(VTI)を評価しておく


圧/容積による肺障害を抑制するために、プラトー圧と駆動圧(Driving pressure)をモニター
目標は、プラトー圧<30(急性肺性心を避けるためには<28※)かつ、駆動圧<15
PEEPの増加後にPaCO2が5〜10%以上増加する場合には肺の過膨張を示唆する
(静脈還流および心拍出量が減少することによる、PaCO2上昇も起こりうる)

※急性肺性心を避けるためにプラトー圧<28cmH2Oがいい?
→根拠は後ろ向き研究。急性肺性心がある患者では、プラトー圧が18-26cmH2Oから27-35cmH2Oに上昇すると、死亡率のオッズ比が3.32(95%CI 1.09-10.12)に上昇していた。急性肺性心の定義は、エコー上で四腔像で拡張末期の右/左心室面積比>0.6+短軸像での収縮中隔運動障害。しかし、後ろ向き研究ですでに肺性心があった患者を見ているため、”肺性心を避ける”効果があるかは不明。肺性心による死亡率増加を抑えるために、なら通じる。

Step3 PEEPで最適な酸素化と無気肺改善の状態を目指す

無気肺改善はコンプライアンスを確認する
肺コンプライアンス=1回換気量/Driving pressure(つまりプラトー圧-PEEP)
この時、1回換気量が一定であれば肺コンプライアンスは1/Driving pressureに近似する
よって、PEEPを初期設定から下げていって、肺コンプライアンスが最も高くなるPEEPこそが無気肺を最も予防できるPEEPといえる(この時のPEEPをAirway Opening Pressureという)

ついで酸素化を見る。
無気肺が悪化しないわけだから、PEEPを下げていっても酸素化が悪くなることはないはず。
酸素化が悪い時に、PEEPを上げるという行動は、以下の2点時で解釈に注意が必要。
 1.PEEP上げる→心拍出量減る→Do2減る
 2.患者の20%に卵円孔開存がいるため、PEEPの変化は心内シャント率の変化を起こす

Step4 オプションを検討する

オプション1.経肺圧モニター(食道内圧バルーン)
オプション2.EIT
オプション3.recruitment-to-inflation index (RII)
オプション4.CTスキャン

【コメント】

・閉塞性障害など病態を無視すれば、初手PEEPを16を超えて設定するのは心理的に抵抗がある。AC-PCモードでPiで14(Driving pressureが14に近似と想定)とすると、プラトー圧を30以下を守るためにはPEEP16が上限になるためである。Gattinoni法は、15〜でいいんやで、とそんな弱い心の支えになってくれる。
・過膨張を起こさず、血行動態に影響を与えず、無気肺を起こさず、酸素化の改善をもたらし、ベストなコンプライアンスを維持する、そんなBest PEEPは存在しない。Gattinoniもそう書いている。では、どこで妥協するか?推しはベストコンプライアンス法…日常臨床とマッチする。
・オプションができる施設は限られる。食道内圧バルーンは、生理学的には納得できる。臨床的にも教育に使用できるし、ギリギリの人に圧をかけても良いという見た目の安心感も得られる。最大の難点は、今の所有用な結果を出せていない点。食道内圧が胸膜圧の絶対値として使用できず、あくまで変化量が胸膜圧の変化量を反映していることに注意が必要(しかし、この変化量もPEEPの変更によってさらに変化してしまう)。
・EITはあっても、まだ使いこなせていない…装着は手間。今後標準化されることはあるのだろうか。

 【参考文献】

Millington SJ, Cardinal P, Brochard L. Setting and Titrating Positive End-Expiratory Pressure. Chest. 2022;161(6):1566-1575. 

Gattinoni L, Carlesso E, Cressoni M. Selecting the 'right' positive end-expiratory pressure level. Curr Opin Crit Care.

Jardin F, Vieillard-Baron A. Is there a safe plateau pressure in ARDS? The right heart only knows. Intensive Care Med. 2007;33(3):444-447.
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