集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

集中治療医のプロフェッショナリズム?

2023年4月30日  2023年4月30日 

【集中治療医のプロフェッショナリズム?】

正直、言語化しにくい。一言でいえば”知仁勇(三徳)”が揃っている、ということだろうか。

論文から拝借すると、”Professionalism in medicine is an acquired demeanor perceived by patients, their families, healthcare workers, and trainees to indicate that the physician has commitment to the needs of the patient, clinical competence, compassion, integrity, and self- awareness.”。

欧州の集中治療医を育成する共通シラバス(CoBaTrICE)にも1章まるまるプロフェッショナリズムについて記載されている。
それぞれ15の小項目に細分化されており、それぞれに”Knowledge”、”Skills and Behaviours”、”Attitudes”が設定されている。
1 患者や家族と効果的にコミュニケーションをとることができる。
2 医療チームのメンバーと効果的にコミュニケーションをとることができる。
3 正確で読みやすい記録/文書を維持する。
4 患者(または意思決定代理人)をケアと治療に関する意思決定に参加させる。
5 文化的・宗教的信条を尊重し、意思決定への影響を認識している。
6 プライバシー、尊厳、守秘義務、および患者データの使用に関する法的制約を尊重する。
7 協力・相談する、チームワークを促進する。
8 臨床情報の効果的な引き継ぎにより、ケアの継続性を確保する。
9 効果的なケアを提供できるよう、ICU 外の臨床スタッフを支援する。
10 患者ケアの提供を適切に監督し、他者に委任する。
11 安全な患者ケアに責任を持つ。
12 倫理的および法的原則を尊重した臨床判断を行う。
13 学習の機会を求め、新しい知識を臨床実践に取り入れる。
14 集学的教育(おそらく教育回診のこと)に参加する。
15 監督下で研究または監査に参加する。
 

【集中治療医のロールモデル像】

とりあえず、プロフェッショナリズムを体現する具体的なロールモデルを設定する。
ロールモデルの切り口には、わかりやすく「医師(臨床能力)」「教師」「人」の3つがあるが、ここでは一纏めとする。
・熱意と思いやりがあって、誠実である
・教育回診をする
・回診時に、意思疎通できる患者に対してより良い関係を築こうとする思いやりを見せる
・臨床家として優れており、自分の限界をわきまえている
・雑談として、過去の症例を共有したり個人的な話でスタッフ間の良い関係を築こうとする
・相談を受けたコンサルタントとして責任を共有しようとする
・コメディカルに責任をもたせ、知的刺激と自己効力感を共有する
・終末期において道徳的苦痛や葛藤を調停する

【余談:ロールモデルについての研究方法】

・ロールモデルの研究は散見されるが、NEJMの症例対照研究はエグい
・内科スタッフ188名によって、優れたロールモデルと思われる医師の名前を投票してもらった。
・症例群は、1票でも獲得した165名。対照群は、1票も入らなかった246名。411人のうち341(83%)が症例対照研究であることを伏せられた状態でにアンケートを回答した。
・多変量解析で、優秀なロールモデルに選ばれることと最も強い関連性を持つ5つの属性は
 1.自分の時間の25%以上を教育に費やしていること
 2.病棟いる際は週に25時間以上教育と回診を行っていること
 3.チーフレジデントを務めたこと
 4.教育において医師と患者の関係の重要性を強調していること
 5.医学の心理社会的側面を教えていること
・5票以上投票された人のサブ解析の属性は
 1.学習者のニーズに合わせた指導
 2.医学教育の過程でロールモデルが重要であると認識している
 3.現在のポジションに満足している
 4.レジデントを教えるのが楽しい
 5.教育にかける労力が高い


【コメント】

・フェロープログラムのコンピテンシー案をみいて、コミットメント、と一言書いてあったことがきっかけで議論が勃発。結論、プロフェッショナリズムの定義がそもそも難しい。そのままカタカナ訳にしたのは、いい言葉が見つからなかったのでは。細かく要素に分解すると、臨床能力×人間力なので、知仁勇(三徳)ということにした。
・次に、具体的に落とし込もう→ロールモデルに近似するんじゃない?という話になり、統計的に8割くらいに人が”望ましい”という行動をとる(ここは目に見える行動のみである)架空のロールモデルの指導医が具体的なプロフェッショナリズムを体現していると仮定しよう、ということにした。いかなる組織でも2割は自分と相容れない存在がいると想定すれば、妥当な数字であろう。
・統計から生み出した架空のロールモデル医とは、結局論文に帰結する。プロフェッショナリズムをロールモデルで代用しよう、というのはもはや車輪の発明以外の何物でもないのためこれまた問題を抱えている。例えば、論文では時代や社会構造が無視されていたり、この仮想プロフェッショナリズム像が現実とかけ離れている(理想となりたいかどうかは別)。
・結局、集中治療医としてプロフェッショナリズムを育てよう、という考えは無理がある。個別の各論的コンピテンシーを経て、最終的に総合してプロフェッショナリズムが形成される。

【参考文献】

Wood LD. Nurturing the roots of professionalism. Am J Respir Crit Care Med. 2011;183(5):561-562. 
Bion J, Rothen HU. Models for intensive care training. A European perspective. Am J Respir Crit Care Med. 2014;189(3):256-262. 
Paice E, Heard S, Moss F. How important are role models in making good doctors?. BMJ. 2002;325(7366):707-710. 
Vincent JL, Boulanger C, van Mol MMC, Hawryluck L, Azoulay E. Ten areas for ICU clinicians to be aware of to help retain nurses in the ICU. Crit Care. 2022;26(1):310. 
Wright SM, Kern DE, Kolodner K, Howard DM, Brancati FL. Attributes of excellent attending-physician role models. N Engl J Med. 1998;339(27):1986-1993. 



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