集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

クモ膜下出血の集中治療ガイドライン改定

2023年6月18日  2023年7月29日 

 

【推奨とエビデンス要約】


破裂〜治療までの血圧目標:
推奨なし。後ろ向き研究からは収縮期血圧≦160mmHgが示唆。

治療までの抗線溶薬投与(トランサミン):
推奨しない。機能予後は変えない。脳虚血↑死亡↑とする研究あり。ULTRA trialがインパクト大、結果は機能予後も脳虚血も死亡も有意差なし。

CCB:
ニモジピン経口投与を強い推奨。
DCI予防のためのニカルジピンの静脈内投与は、副作用のリスクが高まるため、行わないことを強く推奨。ニカルジピン臨床的に重要なアウトカムには影響がなく、低血圧、肺水腫、急性腎不全を含む副作用のリスクが有意に増加する。ニカルジピン以外のCCB静注または脳室内投与に推奨を出すエビデンスが不十分。

エンドセリン受容体拮抗薬:
死亡率や機能的アウトカムに対する有益性がなく、有害事象のリスクが高まるため、推奨しない。クリッピングを対象にしたCONSCIOUS-2 試験では、血管痙攣および全死因死亡率に対して相対リスク低下は17%(95% CI - 4 to 33、p=0.10)で統計的有意差なし。コイリングを対象にしたCONSCIOUS-3試験(早期中止)では、よ6週間後の全死因死亡率と血管攣縮関連罹患率の有意な低下と関連し、オッズ比は0.474(95%CI 0.275-0.818、p=0.0075)、神経学的予後は変えない。有害事象(肺水腫、低血圧、貧血)は有意に増加。

スタチン:
DCI予防目的の投与は有益性がなく推奨しない。大規模試験で神経学的予後は変わらず。元々飲んでいた患者で、継続するかどうかまでは分からない。

意図的な高マグネシウム血症:
有益性がなく推奨しない。

輸液管理:
制限のない輸液は肺水腫リスクが高まるため推奨しない。エビデンスの質は低い。少なくとも自由な輸液は、死亡率やDCI、神経学的予後に有益を示さない。Euvolemiaでの管理を推奨するが、エビデンスの質は低い。

DCIを起こした患者の意図的な血圧上昇および心拍出量増加:
質の高いエビデンスが不十分で推奨なし。患者個々の血行動態に合わせ、慎重に行うべきである。少なくとも多くの研究では有益性は示せていない一方で、一部の研究では肺水腫や神経学的予後不良などの有害性が示されている。

DCIのモニタリング:
神経学的診察と神経画像所見を組み合わせたモニタリングについて、推奨なし。

低ナトリウム血症の管理に対するミネラルコルチコイド投与:
正常な血清ナトリウム濃度および/または体液バランスを維持するため、あるいは機能的転帰を改善するためにミネラルコルチコイドを投与することを支持する証拠は不十分。RCT4つあるが小規模で方法論的な限界ある。SAH発症後早期に投与を開始し、10~14日間継続した場合、低ナトリウム血症の発生率を低下させ、低カリウム血症の発生率を上昇させる可能性がある。

輸血:
ヘモグロビン>7g/dL以上を輸血閾値とすることに対する、推奨のエビデンスが不十分。

水頭症の管理:
外誘導抜去の最適な方法について、エビデンスがなく推奨なし。ウィーニングしてから抜去するか、クランプしてから抜去するかの2つがメイン。単施設の小規模RCTでは直接クランプ群に無作為に割り付けられた患者は、EVD期間とICU滞在期間(いずれも二次エンドポイント)が短縮され、安全性は両群で同等であった。

【コメント】

・最もプラクティスが変わるのは、ニカルジピン予防投与不要とエンドセリン受容体拮抗薬使用不要。前者は実際に実臨床が変わり、ノルアドレナリンを使用してでも絶対にニカルジピン最低量使用する、というのは行われなくなった。後者については継続となっている。肌感覚的には明らかに肺水腫が増えるので、早く何とかしたいところではある。
→日本の脳卒中ガイドライン2023追補で、エンドセリン受容体拮抗薬は推奨度Bとなった。ガイドラインの推奨に対する脳神経外科医の考え方も様々なようだ(痛い目にあった人にはわかる、というやつかも)。

・外誘導の抜去方法など、あまり考えたことがなかった。まだまだ未開拓な部分が多く、研究の余地も多い。

 【参考文献】

(図の出典)Treggiari MM, Rabinstein AA, Busl KM, et al. Guidelines for the Neurocritical Care Management of Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage [published online ahead of print, 2023 May 18]. Neurocrit Care. 2023;10.1007/s12028-023-01713-5. 

ー記事をシェアするー
B!
タグ

コメント

人気の投稿