集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

ICUでの抜歯

2023年6月4日  2023年10月8日 

【抜歯の適応と禁忌】

一般的な適応は、重度う蝕(保存的治療では保存・修復が不可能な損傷を受けた歯牙)、歯髄病変、重度歯周病(歯周病が進行し、歯周組織が回復不能な状態にある歯)、歯根膜周囲病変、歯列矯正、義歯作成目的(例えば総入れ歯を製作するための全抜歯など)、破折歯、不正咬合等の原因となっている場合、乳歯のうち剥離期を過ぎても残っているもの、埋没歯など。

一般的な禁忌は、
全身的な問題:例えば基礎疾患のコントロールが悪い(糖尿病や喘息、肝硬変など)
局所的な問題:例えば 悪性腫瘍に浸潤された歯や動静脈奇形など血管病変を抱えた歯
などである。

ここまではあくまで一般論。
私見だがICUで抜歯を考慮するのは、
目的が脱落した際のデメリットを回避する時かつ、重篤な歯周病または外傷で拙子で容易に抜歯できそうなものだけ、それ以外以外は手を出してはならない。
脱落すると、食道滞留→穿孔という合併症が待っているため、抜歯のメリット>デメリットとなる場合いがいは手を出さないほうが無難。

【抜歯の方法】


・E入りキシロカインで局所麻酔後に行う(挿管されている場合はフェンタニルフラッシュで対応できることが多い)
・一応、上記5つのStepがあるようだが、Step2と3と5で抜歯できなければ早々に諦める。
・最初にApical Pressureを加える理由は、ソケットが拡大し、Step4で行う回転軸がソケット先端と一致するため歯根の破折を防ぐことができるためである
・なお、上顎は下顎に比べ血管が豊富であるため、治癒が早く合併症が少ない。麻酔が切れるのが早く、止血処置も要するため上顎から処置を開始する。

【抜歯後の合併症】

通常は、歯槽骨のソケットに血栓ができるほうがよい。
この血栓が足場となって、治癒に関連する細胞が増殖するためである。

出血:ガーゼ圧迫する。圧迫だけで収まらない場合には、E入キシロカインを局注するか、スポンゼルなどの止血剤を併用する。歯周病の患者ではほぼ出血しない。歯周病があれば、止血目的に縫合はしない。

周辺構造との交通:特に上顎側の構造が薄いので注意。交通サイズが5mm以上では閉鎖が必要になる。
歯槽骨炎(ドライソケット):歯槽の血餅が脱落または溶解したあと、むき出しの歯槽骨から生じる疼痛。多くは自然治癒。喫煙者の大臼歯抜歯では発生しやすい。鎮痛薬で経過を見る。

骨髄炎:通常抜歯後3日以内に腫脹と疼痛が治まる。それ以上局所の疼痛腫脹、発熱が持続する場合に疑う。X線撮影を行い腐骨を確認。抗生剤投与とデブリドマンが必要になる。

顎関節脱臼:下顎に強い力がかかった時。徒手整復する。

【予防的抗生剤の適応】

抜歯の手技はIEのハイリスクであり、以下のような患者群では予防的抗生剤投与を行う。
(ただし、別の理由で口腔内細菌がカバーされるような抗生剤投与中であれば不要)
・人工心臓弁、または人工材料を用いた弁修復後
・機械的循環補助装置(補助人工心臓)を使用している
・IE の既往、再発、再燃がある
修復されていないチアノーゼ型先天性心疾患
・人工材料を使用した、先天性心疾患術後
・心臓弁膜症のある心臓移植レシピエント

【コメント】

・ ICUではしばしば抜歯せざるを得ない状況に遭遇する。原因は歯周病である。遭遇するケースのほとんどが、挿管チューブがあたっている影響+歯周病である。抜歯は合併症の問題があるため、脱落しかかっている歯以外は手を出さないほうが無難。理想的には、歯科医が診察してくれるのが良い。(ただしコロナや保険の問題もあり現実的には来院して処置してくれるかは施設次第)
・通常本人の同意なしに抜歯してはならないが、集中治療室では多くの患者が意識がなく同意不能である。よって、意思決定代理人に状況やリスク等を説明し同意を得ておく必要がある。また、歯周病相当であったことをあとから説明するために、カルテに写真を取り込んでおき、客観的状況および抜歯が必要である旨を記載しておく必要がある。

【参考文献】

Jain, A. (2021). Principles and Techniques of Exodontia. In: Bonanthaya, K., Panneerselvam, E., Manuel, S., Kumar, V.V., Rai, A. (eds) Oral and Maxillofacial Surgery for the Clinician.

Wilson W, Taubert KA, Gewitz M, et al. Prevention of infective endocarditis: guidelines from the American Heart Association: a guideline from the American Heart Association Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease Committee, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Council on Clinical Cardiology, Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia, and the Quality of Care and Outcomes Research Interdisciplinary Working Group [published correction appears in Circulation. 2007 Oct 9;116(15):e376-7]. Circulation. 2007;116(15):1736-1754. 
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