1.セファゾリンは中枢神経系(CNS)感染症には避けるべきである。
実際:セファゾリンも髄液に移行する。過去の研究では、投与後の髄液血中濃度は、Clinical Laboratory and Standards Institute(CLSI)の黄色ブドウ球菌および腸内細菌に対するブレイクポイントである2mg/L以下よりも高かった。とあるレビューでは2g q6hrに増量して投与することが推奨されている。
2.選択的セロトニン再取り込み療法を受けている患者では、リネゾリドは避けるべきである。
実際:リネゾリドは、中枢神経系でセロトニンを分解する酵素であるモノアミン酸化酵素を可逆的かつ非選択的に阻害することから、セロトニン症候群を起こすとされている。観察研究では、発生率0.1%〜であり、適応ある患者のリスクに対して十分ベネフィットと言える選択肢だる。
3.腎機能障害のある患者にリネゾリドを投与する場合、用量調節は必要ない
実際:腎クリアランスとリネゾリドクリアランスに強い相関あり、リネゾリド曝露量の増加(総 AUC またはトラフ濃度で定義)は血小板減少と関連していた。専門家は、リネゾリドの有効性を最適化するためにAUC0-24/MIC比が80~120になるように、安全性を確保するためにトラフを7mg/L未満に維持することを推奨している
4.クリンダマイシンは、ペニシリンアレルギーを有する患者の手術部位感染予防の第一選択薬である
実際:セファゾリンは他のβラクタム系抗生物質と側鎖を共有しておらず、ペニシリンアレルギーの報告がある患者でセファゾリンアレルギーが起こる可能性は極めて稀。メタ解析では、ペニシリンとセファゾリンの二重アレルギーの頻度は0.7%。
5.ST合剤はS. Pyogenesに対してin vitroで活性を示さない
実際:ST合剤は葉酸合成を阻害→核酸チミジン生合成を阻害することで殺菌作用を示す。以前の培地にはチミジンが含まれており、S.pyogenesは外因性のチミジンを利用することが可能であった。in vivoでも皮膚軟部組織感染症に対するST合剤の効果は、多施設ランダム化臨床試験において、治癒率はで88.2%と効果を示している。
6.経口ホスホマイシンは合併症のない膀胱炎に優れた薬剤である
実際:ホスホマイシンは臨床的転帰や単回投与でよいという過去の研究より、ガイドラインでの単純性尿路感染の第一選択となっている。使用量が増えた結果、耐性率が増加(4→11%)した。ホスホマイシンを尿路感染に使用する問題点は、細菌作用を発揮するにはグルコース-6-リン酸(G6P)が必要であることである。この酵素はヒトの尿中には存在しない。
7.リファンピンとゲンタマイシンは人工弁性心内膜炎の治療に必須である
実際:シナジー効果を狙ったものではあるが、多国籍観察研究では臨床的転帰の有益性は示されておらず(1年死亡率や再発率)、入院期間が延長していた。相互作用や毒性を考慮すると、有害性が有益性を上回っている。
8.ドキシサイクリンは妊娠中および8歳未満の小児患者には禁忌である
実際:テトラサイクリンには肝毒性、骨の成長阻害、歯牙着色の有害事象があり、上記患者群では禁忌とされていた。しかし、ドキシサイクリンはこれら有害事象を減らす様に開発された薬である。ロッキー山紅斑熱がは8歳未満で死亡率が高く、レトロスペクティブ研究でも先天奇形や催奇形性、歯牙着色は認めなかった。
【補足:患者が訴える”ペニシリンアレルギー”は本当か?】
ペニシリンアレルギーを訴える患者の90%以上が、真のペニシリンアレルギーではないとされている。
患者がペニシリンアレルギーを申告した場合、PEN-FASTというClinical prediction ruleで確認。
具体的には3項目、
・Penicillin allergy, five or fewer years ago:ペニシリンアレルギーが起きて5年以内か
・Anaphylaxis/angioedema or Severe cutaneous adverse reaction (SCAR):どの程度の症状だったか
・Treatment required for allergy episode:治療を要したのか
PとA/Sに2点、Tに1点が割り振られており、3点未満はペニシリンアレルギー無しの判定になる。
原著では622名を対象にルールが作成され、3点未満でアレルギー検査陽性となったのは460例中17例(3.7%)のみ、陰性的中率は96.3%(95%CI 94.1-97.8%)であった。さらに別の3箇所で外的妥当性を検証しており、同等の陰性適中率であったと報告している。
その後、別試験として、米国で後ろ向きに外的妥当性が検証されている。
ペニシリンアレルギーを訴えている患者120名の、ペニシリンチャレンジテスト陽性に対して(実際にペニシリンを内服させて反応をみてみる、陽性者4名)、PEN-FASTスコアが2以下では、感度100%(95%CI 39.8%-100%)でNPV100%(95%CI 95.9%-100%)、AUC0.88(95%CI 0.84-0.92)であった。
【コメント】
・サピエンス全史(著:ユヴァル・ノア・ハラリ)によると、人間は神話などの共同幻想(迷信)によって連帯することができるらしい。医療においても 、ある種の迷信がまことしやかに伝えられ、実臨床に影響を与えている。迷信は抗生剤に限る話ではない。
・自分の臨床を変えるのは、1番目。感染性心内膜炎→梗塞性出血になったパターンでは中枢移行性を考えて、、、と思っていたが、どうもセファゾリンでも良さそうである。循環器内科や心臓外科、感染症内科とも十分に協議して日常臨床に落とし込む価値がありそう。逆に、最も臨床に遠いのが6番目。ホスホマイシンなぞ処方したことがない。小児の下痢に処方されているのを見かけたことがある程度。
・極稀にSSI予防のクリンダマイシンを見かけることがあるが、実際に目の前でペニシリンアレルギーを目的したことは、ない。PEN-FASTツールの内的妥当性は、原著では十分のように見える。外的妥当性も、人種以外にはあまり気になるところはない。その人種も、有病率が低ければ陰性適中率を下げる要因には働かないであろう。日常臨床には十分耐えられるものと思われる。
【参考文献】
McCreary EK, Johnson MD, Jones TM, et al. Antibiotic Myths for the Infectious Diseases Clinician [published online ahead of print, 2023 Jun 13]. Clin Infect Dis. 2023;ciad357.
Trubiano JA, Vogrin S, Chua KYL, et al. Development and Validation of a Penicillin Allergy Clinical Decision Rule. JAMA Intern Med. 2020;180(5):745-752.
Su C, Belmont A, Liao J, Kuster JK, Trubiano JA, Kwah JH. Evaluating the PEN-FAST Clinical Decision-making Tool to Enhance Penicillin Allergy Delabeling [published online ahead of print, 2023 Jun 20]. JAMA Intern Med. 2023;e231572.
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