2023年9月17日
2023年9月21日
腫瘍細胞が、自己の免疫による攻撃から逃れる主要な方法が2つある。
その2つを阻害するのが、免疫チェックポイント阻害薬である。
1つ目はPD1/PDL1。腫瘍細胞のもつPDL1がT細胞のPD1と結合することで、T細胞が活性化することを抑制している(T細胞だけでなく、B細胞、ナチュラルキラー細胞や骨髄系細胞といった自然免疫に関与する細胞にも発現している様)。
2つ目はCTLA4。樹状細胞のもつCTLA4とT細胞の受容体が結合すると、抗原提示ができなくなるためT細胞の機能が抑制される方向に働く。腫瘍細胞は樹上細胞のCTLA4を活性化させ、T細胞の受容体を増やしている。
疫学は患者特性、抗がん剤のレジュメによりばらついているためばらつきが大きい。
一般的にグレード3以上のIRAEはPD1/PDL1阻害薬の10%、CTLA4阻害薬の10-30%に起こると言われている。2種類を併用すると、重症度と発生率は上昇する。
米国の後ろ向き観察研究では1回でも免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者の3.5%に入院を要するIRAEが発生しており、メタ解析では致死的なIRAE発生率は0.64%(推定 0.3-1.3%)と報告されている。
ICUで見かけるであろう病像は、免疫チェックポイント阻害薬投与2週間〜に出現する、大腸炎(CTLA4阻害薬で多い)・心血管疾患・急性呼吸不全。
注意すべきが2点ある。
1.出現するタイミング
投与から重症化まで14(ICI併用療法)〜40日(ICI単剤療法)と幅がある。
特にPDL1投与の場合、開始から1年後までIRAEの出現する可能性がある他、仮に投与をやめたとしてもIRAEリスクが残存する。
2.IRAEを疑えるか
発症時期や出現様式、経過、重症度が多彩かつ臨床医の判断のばらつきもありIRAEの認識は非常に難しい。
腫瘍内科医のカルテレビューによる研究では、甲状腺機能低下症(免疫療法治療中に診断可能な臨床検査項目が明確で、他の病因と考えられるものがほとんどない)を除けば、診断に対する観察者間の一致が不良であると報告されている。
これまたざっくりBy systemでみていくと…
神経:神経毒性は多彩で要注意。中央値6週ながら、遅発性で治療開始4ヶ月以内と遅れて症状出現してくる。中枢神経毒性(CTLA4阻害薬で頻度高い)だと脳炎や脳症(PRESの報告もある)や無菌性髄膜炎、末梢神経毒性(PDL1/PD1阻害薬で頻度高い)だとギランバレー症候群や重症筋無力症。末梢神経毒性、といえどPDL1/PD1阻害薬の致死的合併症3位。
循環:稀。ただし、心筋症→急性心筋炎、心停止に至るグレードIII/IVは報告されているので急死するため注意。最も致死率が高い合併症(WHOのデータベースでは46%)。CTLA-4iとPD-1阻害薬の併用でより起こりやすく、患者には一般的な心血管リスクがない。
呼吸:ARDSは稀。肺障害は程度様々、PD1阻害でより起こりやすい。症状は、呼吸困難(53%)、咳(35%)、発熱(12%)、胸痛(7%)。画像上最も頻度が高いのは、器質化肺炎パターン(ベタッとした浸潤影)。
消化管肝臓栄養:大腸炎が多い、特にCTLA4阻害薬投与後8〜12週。症状は下痢が最も多く(90%)、腹痛(20%)、嘔気嘔吐(20%)、発熱(10〜12%)と続く。偽性炎症性腸疾患に類似した病理学的所見。時にステロイド抵抗性で長期に持続する。ごく稀にグレードIII/IVレベルの膵炎が0.02%。CTLA4阻害薬では自己免疫性様の肝炎が報告されている。
腎電解質:稀。グレードIII/IVレベルのクレアチニン上昇は0.2%〜
代謝内分泌:頻度は低いながら、多彩なので注意。原発性副腎不全(1%)、甲状腺機能低下(10%、PD1/PDL1阻害薬と関連)、下垂体炎(副腎不全→低ナトリウム血症と脱水に注意、下垂体転移除外のためMRI必要だが40%程度は異常所見なし)、ケトアシドーシスを伴う糖尿病。
血液:稀。症例報告では、ニボルマブやイピリムマブでIgGまたはC3を介する溶血性貧血や致死的血球貪食性リンパ組織球減少症の発生あり。
その他:皮膚のそう痒感や発疹が多いが、グレードIII/IVは稀。スティーブンス・ジョンソン症候群の報告あり。眼球はぶどう膜炎やシェーグレン症候群。
ICUでのマネジメントのメインは、2つ。
1.感染症や癌の進行など他の病因を除外
例えば、大腸炎では、CDとCMVそして便培養でのスクリーニングを検討
甲状腺機能低下が疑われる患者ではTPO抗体やTSHレセプターに対する自己抗体を確認
2.ステロイドの投与
経口または静脈内メチルプレドニゾロン1~2mg/kg/dayを3日間投与
その後、1mg/kg/dayに減量し、1ヶ月くらいかけてゆっくりと漸減
3日間で改善なければ追加の免疫抑制薬+結核スクリーニング+ST合剤予防投与
✓抗胸腺細胞免疫グロブリン:肝炎、心毒性、肺炎、神経毒性
✓ミコフェノール酸モフェチル(500~1000mgを1日2回):肝炎、心毒性、肺炎
✓抗TNF:大腸炎、肺炎(肝毒性注意)
グレードIIIのIRAEではIRAE改善後に、免疫チェックポイント阻害薬を再導入できる。
グレードⅣではIRAE再開は難しい。
しかし、高グレードのIRAEを経験した患者では、癌の奏効率が高いという報告もあり、再開する際には専門家や患者の状態を勘案する。
・数年前のESICMにも、同じタイトルのセッションがあったが、その時は英語に苦戦して内容まではよく分からず。気づけば実臨床でも、IRAEによるICU入室をちらほら見かける様になっている。
・実に多彩な症状で、初見でIRAEと見抜くのは難しそうである。出現様式は、レビューの図をみた印象だと、皮膚→消化器→肺→腎臓の順に出現し、肝臓→内分泌はその間にいつ起きてもおかしくないというイメージ。全Systemに問題を起こしうるため、免疫チェックポイント阻害薬使用経験ある患者は、一度はチェックリストを使用して網を張っておくのが無難。
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