集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

アルコール性肝炎へのステロイド投与

2023年12月24日  2023年12月24日 

 【アルコール性肝炎について】

アルコールを飲むと肝臓に以下のような変化がおこる:
アルコールを飲む→アルコールが脂肪酸のβ酸化をダウンレギューレションした結果トリグリセリドが肝細胞に沈着→脂肪肝形成→アルコール性肝炎→炎症持続による肝臓線維化→肝硬変

病像は、”アルコール利用障害患者が新規(最終飲酒から8週間以内)に黄疸を呈する”である。その詳細な診断基準は以下の通り:
・黄疸発症から8週間以内の最後の飲酒
・血清ビリルビン値が3mg/dL以上
・ASTおよびアラニンアミノトランスフェラーゼ値が400IU/L未満
・AST値が50IU/mL以上
・ASTとアラニンアミノトランスフェラーゼの比が1. 5:1
・他の肝疾患の原因、胆道閉塞、肝細胞癌が除外されている

なお、肝線維化の除外にEnhanced Liver Fibrosis scoreとFibroTestが使用されるよう。
身近にはFIB-4スコア>3.25(年齢、AST/ALT、血小板)で代用して診断できそう。
FIB-4スコアの肝線維化に対する感度58%(95%CI 45-71%)、特異度91%(95%CI 86-94%)。

【アルコール性肝炎のマネジメント】



【ICUに入室する、アルコール性の慢性肝疾患がありそうな患者群はステロイドを投与すべきか?】

A.ルーチンはNo。必ず除外診断を行うこと。

フローチャートをみると、アルコール性肝炎は除外診断である。
マドレースコアやMELDスコアだけをつけて、ステロイド投与の可否を議論してはならない。
もともとのmodified Discriminant Funcition(通称:マドレースコア)の大元になった原著では、アルコール中毒がある患者を対象としている一方で、活動性の消化管出血、膵炎、消化性潰瘍疾患の既往、活動性の感染症、B型肝炎抗原(HBsAg)の存在、ウイルス性肝炎の既往のある患者は除外している。
ICU入室する理由が概ね明確である場合には、ステロイド投与の適応にならないと考えておく。

なお、MELDスコアはもともと経頸管内肝動脈シャント(TIPS)療法を受ける肝硬変患者の短期予後を評価するために開発されたものであったが、外的妥当性を検証した結果フローチャートに記載されるに至った様。

【余談:アルコール性肝炎への糞便移植】

クローン病・潰瘍性大腸炎やCD腸炎などでは有名だが、なんとアルコール性肝炎に対する糞便移植の有用性を示唆するパイロット研究もある。

そもそも、何故アルコール性肝炎に糞便移植なのか?
理由は、アルコールとその代謝物は、腸管微生物による飽和長鎖脂肪酸の合成を減少させることによって、腸内細菌叢を変化させるているのである。
そのうえ、アルコールは腸管の透過性を亢進させることで細菌のリポ多糖が門脈循環へ透過→Toll like receptor 4がリポ多糖を認識して炎症が発生→肝炎が発生して肝臓線維化を引き起こす。そこで、正常な糞便を移植して腸内細菌叢を元に戻すことで、良からぬ細菌を駆逐しようという魂胆である。

対象はアルコール性肝炎と診断された8名の男性患者(MELDスコア:31 、Child-Turcotte-Pughスコア14)。
家族から厳格なスクリーニングの後、30gのドナーの便検体を入手。100mLの滅菌生理食塩水とミキサーで撹拌→滅菌ガーゼで濾過。少量ずつ経鼻十二指腸チューブから7日間毎日注入した。
結果。約1年追跡して腹水消失5例、肝性脳症消失6例、平均ビリルビン20.5→2.86mg/dL、CPスコア14→7.7、MELD31→13.7。

【コメント】

・ICUに入室するアルコール性急性肝炎を診断したことはない。ほとんどが肝硬変に至った症例で、SBPや食道静脈瘤破裂などの合併症で入室するケースが多く、除外診断しようにもその他の因子が多すぎるためである。

・アルコール性肝硬変にまで至った患者では、基礎にアルコールによる炎症がありと考えてステロイドを投与するべきか?個人的な答えはNoである。アルコールによる肝臓の炎症を初期消火するのがステロイドの役割で、炎症の成れの果てにステロイドを投与する意味はないと思う。マドレー先生も、その原著で”肝硬変が進行し、改善がほとんど期待できない患者もいる。このような患者に副腎皮質ステロイドを使用することは、合併症のリスクを高めるだけかもしれない”と言っている。

・いずれICUでも糞便を投与する日がくるのか。でも心情的には糞便ではなく、ヤクル◯かせめてビオフェルミンあたりで代用できないのか…?ざっと論文を眺めると、数値は改善するようである(が死亡率は改善しなさそう。個人的には他に理由がなければルーチン投与はしない)。

 【参考文献】

Singal AK, Mathurin P. Diagnosis and Treatment of Alcohol-Associated Liver Disease: A Review. JAMA. 2021;326(2):165-176. 

Maddrey WC, Boitnott JK, Bedine MS, Weber FL Jr, Mezey E, White RI Jr. Corticosteroid therapy of alcoholic hepatitis. Gastroenterology. 1978;75(2):193-199.

Kamath PS, Wiesner RH, Malinchoc M, et al. A model to predict survival in patients with end-stage liver disease. Hepatology. 2001;33(2):464-470. 

Philips CA, Pande A, Shasthry SM, et al. Healthy Donor Fecal Microbiota Transplantation in Steroid-Ineligible Severe Alcoholic Hepatitis: A Pilot Study. Clin Gastroenterol Hepatol. 2017;15(4):600-602. 
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