集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

ICUでのVRE対応

2023年12月3日  2023年12月3日 

【VREとは】 

腸球菌の中で重要な菌株は2種類、E. faecalisとE. faeciumである。
E. faecalisによる菌血症は、E. faeciumによる菌血症よりも心内膜炎を伴う可能性が高い。
一方、E. faeciumは遭遇すると慌てる、重要な菌株である。
その問題は2つ、バンコマイシンに対する耐性と抗生物質耐性遺伝子を伝播することである。
腸球菌が如何に弱毒菌といっても、透析を始めとする免疫不全患者では脅威であるし、抗生物質耐性遺伝子が伝播するとバンコマイシンという切り札を失いかねない。

臨床研究でどのような対策をして、その結果は?

一般的な対策は以下の通り:
・慎重なバンコマイシンの使用
・感染症についてのスタッフ教育(疫学、病原体が患者ケアのコストと結果に及ぼす潜在的な影響、対策など)
・接触隔離のためコホート化(VRE保菌者は同室配置し、使用機材をコホート専用にする)。
・VRE保菌者に対するユニバーサルガウン+手袋
・接触前後などでの手指消毒
・監視培養(接触疑い患者および環境。1週間以上空いた少なくとも3回連続陰性を確認する)
・再入院時の培養確認
・環境消毒

研究上はどうなっているか?:

1つめは2011年のNEJM。
VREまたはMRSAの患者発生日数が1,000日あたり9件以上と推定されるICUを対象にした非盲検単位のクラスターRCT。
介入ICUでは以下実施。


・ICU入院後2日以内、その後毎週、およびICU退院前後2日以内にサーベイランスとして肛門部または便スワブを採取。スタッフは結果についてアクセス可能とした。
・保菌判明時には接触感染予防を実施
・入院時から退院時まで、または入院時に得られたMRSAとVREのサーベイランス培養の結果が陰性と報告されるまで、ユニバーサルグロービング
主要評価項目である、ICU患者日数1,000日あたりのMRSAまたはVREによる新たなコロニー形成または感染のICUレベルでの発生率は、両群で有意差なし(介入群40.4±3.3 vs 対照群35.6±3.7, p=0.35)。すべての潜在的交絡因子を含む調整多変量モデルでも、介入効果の効果は示されず(介入ICUケアの調整ハザード比 1.05;95%CI 0.81~1.36, p=0.72)。

2つめは、2013年のJAMA。
非盲検ICU単位のクラスターRCTで、MRSA または VRE の入院時培養が陰性で、退院時培養が採取された場合に主要転帰を解析した。
介入ICUでは以下実施。
・すべての患者でユニバーサルガウン+手袋(対照群は陽性患者のみ)
主要評価項目である、MRSAまたはVREの1000患者日あたりの新規獲得数は、両群に有意差なし(介入ICU 21.35→16.91件 vs 対照ICU19. 02→16.29件, 差 -1.71件/1,000人日, 95%CI -6.15~2.73, p= 0.57)。なお、介入群の遵守率はガウンも手袋も概ね85%、副次項目であるVRE新規獲得は減少しなかったが、MRSA新規獲得は減少した。

【もう少し基準をゆるくしても良い?】

A.標準としては推奨できない。患者を選択するコンセンサスが形成されれば効率は良いかも。

具体的には、1回での検査で隔離解除を行うというもの。
オランダでは検出感度を上げるために3〜5回の直腸スワブ検査を行うことがガイドラインにて推奨されている(直腸スワブ1本の感度は42.5~79%)。
しかし、アウトブレイクが起こると検査数が爆発的に増加するため、検査科がパンクしてしまう可能性がある。

そこで以下の対策で、制御できないか?というアウトブレイク時の観察研究。
アウトブレイク時に院内に居たVRE疑い患者や転院患者は中リスクとして1回の直腸スワブ培養(濃縮メントブロスを使用)で隔離を中止し、電子カルテ上で「VRE疑い」のラベルを削除する
・同室など接触歴がある患者では高リスクとして、最後の曝露から3日目、5日目、7日目に3回の直腸培養を用いて分離・スクリーニングする
・入院時のスクリーニング
・VRE疑いと陽性患者のコホートを分離(部屋、スタッフ、医療器具)
・定期的な病院全体の有病率スクリーニング
・標準的な感染制御予防策の遵守率向上
・環境清掃のモニターと強化(ATP測定、サーベイランスおよび250ppm塩素を用いた消毒)

2014年9月〜2017年2月までに、合計140例のVREが検出。
9ヶ月以後は新規VREを検出せず、12ヶ月後に収束と判断された(Discussionでは複数回の検査を用いて18ヶ月で収束した報告を取り上げている)。
ただし、2018年時点でVRE発生率1%というオランダで行われた研究であるため、結果の解釈は要注意。

【VREはいつ消えるのか?】

A.推定は中央値約6週間。しかしリスクがあると2〜4年という報告あり。

参考研究は韓国の後ろ向き研究、対象はVREリスクがある患者のうち退院時にVREがクリアランスされていない(菌株はすべてEnterococcus faecium)+VRE追跡培養が行われた患者が対象。初回VRE分離日からコロニー形成が消失するまで、あるいは外来でのフォローアップが終了するまで、カルテをレビューした。
結果、経過観察期間の中央値は8.86週、最初の培養結果が陰性になるまで中央値5.57週、75%の患者が4.86週目の時点で陰性だった(期間に関しては後ろ向き研究のため過大評価されている可能性あり)。
なお、退院後の長期保菌リスクとして、入院中の手術、抗生剤暴露、透析、ナーシングホームまたはその他の医療機関への退院の可能性が示唆されている

フランスの観察研究でもVRE保菌期間の中央値は42日(75パーセンタイル:101日、90パーセンタイル:221日)、最大値は708日であった(Am J Infect Control 2011;39:169-71.)。

長い方はオーストラリアの後ろ向き研究。同一菌株の検出は最長で3.5年(J Clin Microbiol. 2013;51(10):3374-3379. 

【コメント】

・VRE発生はICU閉鎖を招きかねず、病院や患者にとって大損害が発生する。VREが検出されたときには、既にアウトブレイクしていた、というのが難点である。災害と同様、もし発生した時どうするか?というのは事前に想定しておくべきであろう。

・RCTで結果がでないのは、それだけ容易に伝播する+保菌感染が潜伏してすぐ検出されないから、よって、接触感染予防が意味ないというよりは、コンプライアンスが低いだけですぐに無効になってしまう+制御に長い時間がかかるものである、という解釈だろうか。

 【参考文献】


Recommendations for Preventing the Spread of Vancomycin Resistance Recommendations of the Hospital Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC):https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/00039349.htm

Huskins WC, Huckabee CM, O'Grady NP, et al. Intervention to reduce transmission of resistant bacteria in intensive care. N Engl J Med. 2011;364(15):1407-1418. 

Harris AD, Pineles L, Belton B, et al. Universal glove and gown use and acquisition of antibiotic-resistant bacteria in the ICU: a randomized trial. JAMA. 2013;310(15):1571-1580. 

Weterings V, van Oosten A, Nieuwkoop E, et al. Management of a hospital-wide vancomycin-resistant Enterococcus faecium outbreak in a Dutch general hospital, 2014-2017: successful control using a restrictive screening strategy. Antimicrob Resist Infect Control. 2021;10(1):38. 

Sohn KM, Peck KR, Joo EJ, et al. Duration of colonization and risk factors for prolonged carriage of vancomycin-resistant enterococci after discharge from the hospital. Int J Infect Dis. 2013;17(4):e240-e246.

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