集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

SAH後の抜管

2023年12月10日  2023年12月10日 

 【神経集中治療での抜管基準】



神経集中治療領域の古典は、上記表であろう。
この表は、研究では急性脳障害で挿管された患者を対象にした前向き観察研究で作成された。
(この表の出典は不明で、妥当だと皆が考えられるプラクティスを素にしていると推察)
予定手術、中毒、原因不明の代謝性昏睡は除外された。
上記表の項目をチェックして、全ての項目を満たせば患者は抜管された。

結果、対象となったのは136名(内訳は頭部外傷が78名、クモ膜下出血が26名)。
入院時の昏睡、急性脳障害の診断、肺炎、年齢をコントロールしたロジスティック回帰モデルでは、死亡と抜管の遅れとの関連は残っていたが、統計的に有意ではなくなった(多変量オッズ比 2.6, 95%CI 0.76-8.9)。

その後、様々な研究を元に、最近のICM紙面で提案されていたのが以下のフロー。

【aSAH後の最適な抜管タイミングは?】

A.不明である
SAHに限ると、研究が少なく2020年のReviewによれば、SAHに関する人工呼吸器の論文は31本。このレビューでも抜管に関する推奨は出されていない。
上記フローも外的妥当性は証明されていない。

ユニークなのはBI-VILI研究で、早期抜管でもいいのでは?ということを示唆している。
この研究は、CTで可視可能な急性脳損傷(外傷性脳損傷、くも膜下出血、その他)でGCS≦12かつ、24時間以上の人工呼吸を必要とした全患者を対象にした前後比較研究。
以下のあっさりしたプロトコルを使用。


主要評価項目である急性脳損傷発生から90日間の人工呼吸器離脱期間は有意差なし。
SAH177名を対象にしたサブ解析でも、ハザード比 1.15 (95%CI 0.81-1.64)。

【コメント】

・通常、ICUでの抜管失敗率は10%程度(自施設は8%)。神経疾患が理由で挿管されている患者では失敗率は19%とも言われており、神経疾患患者の抜管は特殊なのである。

・抜管患者の選定もそうだが、抜管の最適なタイミングについても、早期がよさそうという事以外は明確なものはない。SAH患者に関して、体感的には、SAHのWFNSが低い+Fisherが低いなら早期抜管へ、WFNSが高い+Fisherが高いならやや遅れた抜管(動脈瘤処理後72〜96時間)というのが感覚的な抜管時期。ただし最近は、クラゾセンタンの使用もあり抜管は明確に遅れ傾向にある気がする。

・2000年のブルージャーナルが面白いのは、患者の神経学的回復と覚醒を完全に待っても、抜管失敗率の低下にはつながらないこ、ということを示唆していることである。以後、ENIO studyやら色々行われて、(たぶん)全部盛りにしたのが上記フロー。如何にGCSが低くても大丈夫といえど、重要なのはGCSのトレンド次第。このトレンドが織り込まれているのが好感触。

・上記フロー(BI-VILI研究のAsehnoune Dr.が作成に関与)の問題は、神経集中治療の中でもSAH患者を対象に適応してよいのか?という点。私見では、実際に臨床現場でも適応していることが多い。というのも他に妥当な案も無く、内容についても妥当な項目が揃っているため、である。毎日フローを確認し、早期に抜管できないか?というのを確認。

 【参考文献】

Coplin WM, Pierson DJ, Cooley KD, Newell DW, Rubenfeld GD. Implications of extubation delay in brain-injured patients meeting standard weaning criteria. Am J Respir Crit Care Med. 2000;161(5):1530-1536. 

Cinotti R, Citerio G, Asehnoune K. Extubation in neurocritical care patients: lesson learned. Intensive Care Med. 2023;49(2):230-232. 

Towner JE, Rahmani R, Zammit CG, et al. Mechanical ventilation in aneurysmal subarachnoid hemorrhage: systematic review and recommendations. Crit Care. 2020;24(1):575.

Asehnoune K, Mrozek S, Perrigault PF, et al. A multi-faceted strategy to reduce ventilation-associated mortality in brain-injured patients. The BI-VILI project: a nationwide quality improvement project. Intensive Care Med. 2017;43(7):957-970. 
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