集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

クラゾセンタン②(冷静編)

2024年3月10日  2024年3月10日 
大規模多施設RCTであるCONSCIOUS研究3本はコケた。
しかして、この世から駆逐された…筈だったが、日本で行われた研究を元に復活を遂げる。

 【日本が絡んだ2つのRCT】

①日韓のDBRCT(Ⅱ相試験)

20〜75歳でクリッピング術後の動脈瘤性SAH患者(最終的にN=158)が対象。
プラセボまたはクラゾセンタン(5mg/hと10mg/h)を発症56時間以内に投与を開始し、14日間まで継続。
主要エンドポイントクモ膜下出血後14日以内の、中等度以上血管攣縮(動脈縮小≧34%)。

結果:
中等度以上の脳血管攣縮はプラセボ群で80% vs 5mg/h群で38.5% vs 10mg/h群で35.3%
(2つのクラゾセンタン群とプラセボ比較はいずれもp<0.0001、ボンフェローニ法で有意水準は0.025と設定)

②日本57施設のDBRCT(Ⅲ相試験)

20〜75歳でコイリングまたはクリッピング術後の動脈瘤性SAH患者(N=221)が対象。
プラセボまたはクラゾセンタン(10mg/h)を発症48時間以内に投与を開始し、15日間まで継続。
主要エンドポイントは2つ。
1)クモ膜下出血後6週間以内の、血管攣縮に関連した合併症または全死亡
2)クモ膜下出血後6週間以内の、合併症または全死亡

試験備考:
・薬剤投与はSAH発症48時間以内かつ、手術後24〜48時間以内の頭部CT撮影後から開始とした
・主な組み入れ基準は、術前CTでFisherグレード3、およびWFNSグレード1-4。
・主な除外基準には、術前DSAで中等度から重度の脳血管攣縮、外科的介入中の重大な合併症(新たな大きな脳梗塞、外科的介入後12時間以上持続する新たな重大な神経障害を含む)
・試験薬投与開始4時間前〜試験薬中止まで塩酸ファスジル水和物、オザグレルナトリウム、ミルリノン、塩酸ニカルジピンの静脈内併用は禁止とした。ただし、脳血管攣縮時には最大15分までトリプルH療法を含めてレスキュー療法として上記薬剤が使用許可された。
・ICU管理は以下のガイドラインに極力従うことが定められた
  1.脳血管攣縮があればSBP≧150mmHgまたはベースから30%以上、なければ≧120
  2.維持輸液は1-1.5ml/kgで、試験薬が終了するまでOffしてはならない
  3.低血圧があれば血管収縮薬を使用する、推奨される血管収縮薬(注:その通り書いてある)はドブタミンである 。必要に応じてノルアドレナリンやドパミンの併用を考慮する。
 4.収縮期血圧が目標に達しない場合には輸液反応性を確認する。確認方法は a)人工呼吸器が外れている状態でIVCの呼吸性変動が40%以上、b)人工呼吸器回路をOffしたときにCVP≦5、c)PLRで1回拍出量が10%以上増加。体液反応性がない患者には24時間以内に1L以上のボーラス投与は避けるべきである。
 5. Euvolemiaは以下で判定する。 
 a) 24時間のIN/OUTバランスが500mL/日以内 
 b) 人工呼吸器回路を外しても自発呼吸でIVC直径の変動が40%未満
 c) 機械的人工呼吸患者において、PEEP=0で1回換気量10mL/kgのとき、吸気によりIVC直径が15%以上増加
 d) SVVが10%未満
 e) PLRに対する一回拍出量増加が10%未満
 6. ARDSの診断はベルリン定義を使用 
 7. 低酸素に対する標準的なアプローチを適用すべきである。ただし、PEEPとFiO2を通常の範囲を超えて連続的に増加させるべきではない(注:具体的数字は不詳) 
 8.安全性に懸念がある、禁忌とされる併用薬使用時、上記ガイドラインに従えない、有効性がない(病勢進行、治療失敗、患者の病状の悪化と定義)、重篤な脳浮腫か肺浮腫が出現した場合には 試験薬を中止(注:具体的数字は不詳)
・試験中にサンプルサイズを1群80→110例に増やした他、SAH後14日以内の中等度から重度の血管攣縮(動脈縮小≧34%)の発生率を有効性エンドポイントに追加している
・スポンサーが資金提供した他、試験のデータ収集および統計解析にはスポンサーが支援している委託期間によって行われている。全ての著者がスポンサーからコンサルタント料か報酬を受けている。共著者のうち2名はスポンサーの寄付講座所属である。

結果:
主要評価項目1)クモ膜下出血後6週間以内の、血管攣縮に関連した合併症または全死亡
  プラセボ34.1% vs クラゾセンタン14.9%, p<0.0001
主要評価項目2)クモ膜下出血後6週間以内の、合併症または全死亡
  プラセボ49.3% vs クラゾセンタン39.4%, p=0.032
 安全性(試験薬関連合併症)
  プラセボ15.3% vs クラゾセンタン35.3%

 

 【2023のNCCガイドラインの評価】

推奨:エンドセリン受容体拮抗薬の投与は、死亡率および機能的アウトカムに対する有益性がなく、有害事象のリスクが増加するため、推奨しない(強い推奨、エビデンスの質が高い)。

 【余談:心臓に対するエンドセエリン受容体拮抗薬】

エンドセリン受容体拮抗が血管拡張をもたらす、と考えると冠動脈狭窄等にも効果あって然るべき?と考えるのが人情というものである。
肺高血圧ではそのエビデンスが確立されているが、冠動脈疾患や心不全を対象にしたメジャージャーナルではというと…
・ACS+HFrEF→効果なし(RITZ 4trial/RITZ5 trial)
・AHFrEF→効果なし(VERITAS-1/VERITAS-2)
・NYHA3-4のCHFrEF→効果なし(ENABLE)
・CHFpEF→運動耐容能は改善も、LVリモデリングや拡張機能は改善せず

血管病変のみであれば、たとえばSTEMIだけであれば梗塞範囲を縮小する、などのアウトカムを報告する論文がある。一方で心不全ある患者では軒並み旗色が悪い印象。
副作用としてはLFT悪化(ボセンタン)、末梢浮腫(ボセンタンとアンブリセンタン)、貧血(ボセンタンとマシテンタン)などが知られている(J Am Heart Assoc . 2016 Oct 26;5(11):e003896.)。

【コメント】

・すげえぞ日本!クラゾセンタン復活ッ!という金カム的な興奮する論文であった。脳神経外科の先生たちも、輸液反応性の確認としてPLRするんだな〜というのがまた奥が深い。第3相試験で気になるのは、主要評価項目が2つあり、閉手順で検定されているが、N数を増やしたことで第一主要評価項目に有意差をつけようとしたのでは?という疑念。如何せん統計に詳しくないのでここらへんをどう解決したのかは不明である。なぜこの素晴らしい結果に対して、本体が売り飛ばされたのか全く理解できない。

・とまあ興奮したものの、上記のごとくNeurocritical careは冷静であった。このガイドラインには、日本の研究が含まれていないのだから興奮が伝わらないのも致し方ない。

・この第3相試験に対するレターとその応答がこれまた奥が深い。
トリプルHやファスジルがレスキューでしか使用できないため対照群が不利じゃん、対照群の設定に問題があるのでは?
ファスジルをルーチンで使用できないのはクラゾセンタンで低血圧が起こるリスクがあるからだし、トリプルHだってVolume overloadになるリスクがあるからだよ。そもそもファスジルやトリプルHなんてエビデンスレベル低いよ。

・研究を外挿せず厳密に解釈するならFisher grade3以外やWFNS5に投与したり、有害事象が出ても続けるということはやめておいたほうがいいと思われるが、現実には大人の事情もあってそうもいかない。次回、REACT研究(BMC Neurol . 2022 Dec 20;22(1):492.)結果発表後、祭囃し編。

【参考文献】

Endo H, Hagihara Y, Kimura N, et al. Effects of clazosentan on cerebral vasospasm-related morbidity and all-cause mortality after aneurysmal subarachnoid hemorrhage: two randomized phase 3 trials in Japanese patients. J Neurosurg. 2022;137(6):1707-1717. Published 2022 Apr 1. 

Fujimura M, Joo JY, Kim JS, Hatta M, Yokoyama Y, Tominaga T. Preventive Effect of Clazosentan against Cerebral Vasospasm after Clipping Surgery for Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage in Japanese and Korean Patients. Cerebrovasc Dis. 2017;44(1-2):59-67. 

Treggiari MM, Rabinstein AA, Busl KM, et al. Guidelines for the Neurocritical Care Management of Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage. Neurocrit Care. 2023;39(1):1-28. 

Barton M, Yanagisawa M. Endothelin: 30 Years From Discovery to Therapy. Hypertension. 2019;74(6):1232-1265. 

Kimura T. Letter to the Editor. Clazosentan was superior to placebo, but was the comparison appropriate?. J Neurosurg. 2023;139(1):299-300. 
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