【働き方改革の概要】
”月あたりの残業時間が制限され(A水準なら80時間以内)に収まるようにする必要があり、違反すると雇用者側に罰則が発生する”というものである。
【集中治療加算の変更について】
1.年間入室患者の10%以上がSOFA3点以上(加算3)またはSOFA5点以上(加算1)であること。ただし加算5はSOFAスコア要件が不要。
2.医療・看護必要度IIへ切り替わり、要件を満たす患者が入室患者の7割以上(加算3)または8割以上(加算1)
3.医療・看護必要度の項目と基準が変更
「輸液ポンプの管理」の項目を削除
重症度、医療・看護必要度の基準要件で、A得点3点以上→2点以上に変更
4.治療室内に配置される専任の常勤医師は宿日直を行ってない医師であり、バイト医等は宿日直を行っている扱いになる。
5.治療室内に専任の常勤医師が配置されない区分(新設の加算5と6)において、遠隔 ICU モニタリングにより特定集中治療室管理料1及び2の届出を行う施設から支援を受ける
【これらをうけて、何が起こりうるのか?】
1.一部のICUは崩壊する
ICUは労働集約型の部門であり、医師やコメディカルの成長が遅い部門である。
働き方改革により、働く時間が減って嬉しい一方で、宿日直許可など当然のごとく許可される部門ではなく、ICUをカバーする頭数を増やす必要が出てくる。
ICUをカバーできる人手がすぐに湧いて出てくるわけもなく、ある程度未熟なフェローも当直を回す要員になるだろう。
そうなると、もともと人が居らず教育のない施設は更に苦しくなり、人が多くて教育のある施設だけが勝ち組になりそうである。
2.遠隔ICUが内輪で流行る…かもしれない
加算5の旨味は、遠隔ICUで加算アップになる点である。
しかし問題は、遠隔ICUの質である。
遠隔ICUで相談する相手が、自施設のリソースについてどこまで理解しているのか?法的な責任をどこまで負うのか?相談する側がどこまで集中治療のことを分かっているのかを把握できるのか?そもそもシステムのバカ高い導入コストやその維持コストはどうするのか?
個人的には上記疑問があり、本当に遠隔ICUがうまくいくのか眉唾なのであるが、こういった問題を解決する状況が1つある。
内輪で、お互いの顔を知っており、リソースもある程度把握している場合である。
内輪の関連病院で、加算5に上乗せして加算を取得したいという状況では上手くいくだろう。
そういった施設は少ないと思うので、あくまで実験的な試みに終わりそう。
3.救急が頑張らない施設では特定集中治療管理加算1がとれなくなる
SOFA5点が10%以上となると、麻酔科主体で難易度の高い術後受け入れが多い施設では難しく、救急外来から経由する重症患者を一定数受け入れる必要がある。
救命センター型は重症を選別することで維持可能であろうが、二次病院はどうなってしまうのか…重症患者を救急外来で診療できるかどうかは、施設のリソースの問題もあるため、結果として加算1は減る方向に働きそうである。
4.デジタルトランスフォーメーションにより仕事が自宅に持ち込まれる
残業を減らそうとすると、”仕事の総量を減らす”か”見かけ上残業してないようにする”の2択である。
多数の委員会や必須講習、事務書類や夜間休日の家族説明などに縛られているため仕事の総量を減らすのは難しい。
そうなると自宅でカルテや画像を確認でき、残りのカルテ記載したり退院サマリなどの事務書類が作成できれば見かけ上残業が減って好ましい。
どうやって見かけ上残業が減るか?という技術やテクノロジーは発達する可能性が高い。
5.認定看護師の取り合いが発生する
加算のために名ばかりの当直医をおいている、比較的重症度の低い施設は加算5に切り替えることになろう。
特定加算5の取得要件は概ね緩そうだが、認定看護師が1名必要なところが難点である。
認定看護師1名だけ雇用しても、離職された場合、一気に加算が落ちてしまう。
最低2名を雇用しようと、各病院が確保に走るのではなかろうか。
【余談:身体抑制による減算だと?】
全ての病棟において、身体抑制の廃止および縮小を目指していく方針となっている。
▽当該医療機関において、「患者または他の患者等の生命・身体を保護するため緊急やむを得ない」場合を除き、身体的拘束を行ってはならない
▽上記の身体的拘束を行う場合には、その「態様」「時間」「拘束時の患者の心身の状況」「緊急やむを得ない理由」を記録しなければならない
▽身体的拘束とは、抑制帯など「患者の身体または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限」をいう
▽当該医療機関において、身体的拘束最小化対策に係る専任の医師および専任の看護職員から構成される「身体的拘束最小化チーム」を設置する
上記文言では、抑制には”スタッフの安全”については触れられていない。
ドせん妄+挿管患者で、せん妄を抑えるために、いつもよりちょっと早いタイミングでの抜管に踏み切ることもしばしばある。しかし、あの”Cowboy Extubation”で、何度もヒヤヒヤしたことか…自身も首を掴まれたときは流石に危ないなと思った。
というわけで、ICUでは薬剤による化学的身体拘束が増えそうな予感がする。
(なお、こういう身体的拘束最小化チームなど、加算や減算のために無限に仕事を増やすことは良いと思えない)
【コメント】
・どうも、ちゃんと重症患者をみているICUに加算をあげることで病床を削減して集約化したい、という意図のように思う。個人的な雑感では、長期では不可避だが、短期では一部の病院が出血を強いられるな、という印象。そもそも1を5に落とさないといけない、という集中治療室とは…?
・ある程度、資金力がある組織でER/ICUを多数さばいていく人を集約する必要がある。しかし、この人を集約ために人件費がかかるし、病院利益は国の方針により圧迫される傾向にある。赤字にあえぐ公立病院や、そもそもの人的リソースが乏しい地方病院のICUは厳しい。都市部(県庁所在地ではなく)の大きな医療法人グループか、あるいは安く労働力が得られる大学病院はなんとかなるだろう。そのうえ、長期的には、さらにERとICUにおいて内部人材を教育してチームを継続させていく必要がある(そんなことが可能な施設あるのか?????)。
・なお、宿直許可を得たとしても実態が当直であれば、当然のごとく当直代を支払う必要があり、宿直許可も取り消されるであろう。
・そういえばNPの存在について書かなかった。NPの恩恵を受けるのは主に外科系だろう。集中治療もニーズはあるのだが、組織の初期段階で医者として求められる立場から、組織の成熟に伴って楽しくなさそうな業務へ移っていく、ということが目に見えるため、NP側から集中治療を選ぶ人は今後もいなさそう。かといって選択できる科を絞るようにすると、NPのなり手も減る。そもそも看護師の頭数もたりていないため、海外のように多数のNPで回していく、というのは無理である。
【参考文献】
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