集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

食道内圧を用いたエラスタンス法

2024年6月16日  2024年6月16日 

【経肺圧の簡単な説明】

肺の壁にかかる圧を経肺圧という
これは、肺の内側と外側の圧較差である。
排便時に息を目一杯吸い込んでクソほどいきんでも肺が破けないのは、胸壁が肺を外側から抑えてくれるので肺にかかる実質の圧が低いからなのだ。

内側は肺胞内圧であり、外側は胸腔内圧である。
胸腔内圧はドレーンでも入れないと測定できないが、食道が胸腔にあることを利用して、代用できるのである。つまり食道内圧≒胸腔内圧と考える。

ここまでを式にすると、
経肺圧=肺胞内圧-食道内圧

人間は吸気と呼気があるわけだから、人工呼吸器を使用している患者では
吸気時経肺圧=プラトー圧-吸気時食道内圧
呼気時経肺圧=PEEP-呼気時食道内圧
といえる。

ここで、呼気経肺圧→吸気経肺圧の圧較差が肺をふくらませるときに肺にかかる圧の総和になる。これを駆動圧(ΔPl)という。
よって、
ΔPl=吸気時経肺圧-呼気時経肺圧
ということができる。
肺がある程度しぼんでいるところから膨らむところまでの圧で、溜まっていくストレスポイント、と言い換えるとイメージしやすいか。

【食道内圧を使う場面】

1.呼気時には最適なPEEPを決めることができる

呼気時経肺圧=PEEP-呼気時食道内圧
呼気時経肺圧がマイナスという状況は、肺が押しつぶされて無気肺となっている状態である。
よって、無気肺にならないようにPEEPを設定する。
具体的には呼気時経肺圧=0-2cmH2Oとする

2.肺にどれくらい駆動圧がかかっているのかがわかる

ΔPl=吸気時経肺圧-呼気時経肺圧
死亡率が上昇してしまうためΔP<15としておくのが世のトレンド。
ストレスポイントは極力貯めない。

3.吸気時に肺にどれくらい圧をかけられるのかが分かる(+エラスタンス法)

吸気時経肺圧=プラトー圧-吸気時食道内圧
思いの外、吸気時食道内圧が高い人がいる。
例えば、胸部熱傷で胸壁の動きが悪い人である。

人工呼吸器の送気した圧は、胸壁を動かす圧と肺を膨らます圧の2つに配分される。
胸部熱傷患者では胸壁が全然動かず、吸気時の食道内圧が高いせいで、プラトー圧を高くしても肺には実質圧がかからず空気が入らない。
この圧の配分は、エラスタンス(膨らみやすさ)の比率に従う。
これを式になおすと、
吸気時経肺圧=吸気時にかかった全ての圧✕肺エラスタンス/(胸壁エラスタンス+肺エラスタンス)
となる。
動物実験から、正常では全体の駆動圧が肺70%、胸壁30%に配分される。
この配分をエラスタンスの配分によって求める。
肺と胸壁のエラスタンスの求め方には駆動圧を用いる。

全体の駆動圧はΔPawといい
ΔPaw=プラトー圧-PEEP
で求められる。
このΔPawが肺と胸壁に分配される。
そこで、肺がどれくらい使ったか?というのはΔPlで判明する。
肺エラスタンス/(胸壁エラスタンス+肺エラスタンス)=ΔPl/ΔPaw
あとは、プラトー圧✕ΔPl/ΔPawで吸気時に肺にかかっている圧が分かる

ここで、わざわざエラスタンスで割り出さすなんてまだるっこしいことしなくても、吸気終末に吸気ポーズをかけたうえで、吸気時経肺圧=プラトー圧-吸気時食道内圧が吸気終末に肺にかかっているを直接測定すればよくね?という疑問が湧く。
確かに、これでもいいのだが、吸気ポーズによって得られたプラトー圧は肺全体の総和であったり、重力に依存して(dependent)潰れた背側の無気肺領域部分の影響を受けてしまう。
この直接測定では、局所の肺のdependent領域(つまり、重力によって潰されて無気肺となっている部分)の経肺圧を反映する。

一方で、エラスタンス法が良いのは、重力に非依存の領域、つまり腹側側の換気される肺胞領域の部分を反映する。本来知りたいのは、肺が重力によって潰されることなく、酸素化や換気に寄与する残された部分の肺にかかる圧である。この圧が過剰にかかると、残された肺さえも障害されてしまうためである。
エラスタンス法で測定した吸気時経肺圧≦21となるようにする。

4.強い自発呼吸が分かる

自発呼吸がある患者では、吸気終末と呼気終末の圧較差でみる。ΔPesと表記される。
ΔPes≦10がこれまた1つのお作法。
急性期は鎮静剤を使用して強い自発呼吸努力を抑える。

【コメント】

・普段喋っていることを文字に書き起こしながら壁打ち。お絵かきしながら喋らないと、文字だけ見返すと何書いてあると苦しい。

・強い自発呼吸のところは完全に尻切れ。強い自発呼吸は呼吸仕事量(WOB:Work of Breath)で数字化する。食道内圧を用いた測定がゴールドスタンダードである。Pmus=(VT✕Ccw)-ΔPlでこれを時間で積分するとPTPes(つまりWOB)だ、というところまでは理解できるが、問題はキャンベルダイアグラムである。コレガワカラナイ。実臨床はここまで理解しなくても良いと判断している。

・もう1つ意味わからないのは、Ecwが予測肺活量の4%としている点(原文:Pcw can also be computed as the instantaneous volume divided by the theoretical chest wall compliance [estimated as 4% of predicted vital capacity.])。参考元が古すぎて検証不能。なお、腹腔内圧を測定することで、 Ecw = 0.47 × intra-abdominal pressure (cmH2O) + 1.43 の式を用いて似的に胸壁エラスタンスを推定することもできるが、わざわざ腹腔内圧を測定する場面がない(Am J Respir Crit Care Med. 1998;158:3–11.)。経肺圧モニターが利用できなければ1つの手段として持っておいても良いのかも知れない。

・強い自発呼吸のパラメーターとしてΔPesをみることはあるが、横隔膜保護フェーズだと多少目をつぶっていることもある。どこを許容しないか?という線引がいつも悩ましい。あとは、身体所見を数字化できるようになれば武器が増えるのだが。

・患者群のばらつきが起こるような大規模試験では、経肺圧は有用性を示せていない。しかし、胸壁コンプライアンスが悪い人たちには生理学的には有用だろうと思う。結果が出ないとなんとも言えないが、ARDS netのPEEP protocolを打ち負かせていない時点で、90%くらいの症例はARDS net protocolでいいし、非集中治療医もこれに従っておけばOKという気もしている。

 【参考文献】

Mauri T, Yoshida T, Bellani G, et al. Esophageal and transpulmonary pressure in the clinical setting: meaning, usefulness and perspectives. Intensive Care Med. 2016;42(9):1360-1373. 

Goligher EC, Jonkman AH, Dianti J, et al. Clinical strategies for implementing lung and diaphragm-protective ventilation: avoiding insufficient and excessive effort. Intensive Care Med. 2020;46(12):2314-2326. 

Jonkman AH, Telias I, Spinelli E, Akoumianaki E, Piquilloud L. The oesophageal balloon for respiratory monitoring in ventilated patients: updated clinical review and practical aspects. Eur Respir Rev. 2023;32(168):220186.
 
Piquilloud L, Beitler JR, Beloncle FM. Monitoring esophageal pressure. Intensive Care Med. Published online April 11, 2024.
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