2024年6月2日
2024年6月2日
仮に、人の成長はコンフォートゾーンの外側にある、ICU立ち上げで他の施設に集中治療科専従で異動して苦労する、と決意したとしよう。
どういう条件が好ましいのか?を考察。
(Zugzwang:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%84%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%AF)
1.上層部がICUに対する理解がある
ICUが労働集約型部門で成長が遅い部門であるため、ICUが回転するには少し時間がかかる。
このことを理解している院長〜幹部がいることが絶対条件である。
集中治療科?なにそれ、何ができるの?集中治療管理なんて各科管理でできるでしょ、という上層部の雰囲気があれば最悪である。例えば、あれだけ素晴らしい本を書いた先生が、院長になった末に◯◯診療科はいらない、とかいわれた事実を思い出すと涙が出てきますよね。
集中治療科立ち上げをお願いします、といわれたら立ち上げた先にどのような展望があるか仔細を確認しよう。
2.異動先の部長が具体的展望を示す
リーダーとはフォロワーと未来を一緒に生きようとする人である。部長が過去に何をしたとか、どういう経歴かというのは全無視してよく、どういう展望を持っているかが大切。
また、具体的展望を述べたとしても、かならずそれが上層部と共有できている必要がある(ACPと同じで、希望を言うだけ言って共有されてなければ無いのと同じ)。上司のキャラによっては集中治療科が丸ごと上層部と敵対関係になるリスクあり。
これは直感だが、部長が自分と干支2週近い関係なら、違う意味で臨床現場において色々とリスク(と仕事)を抱えることになる気がする。
3.重症管理システムがある
集中治療医は他科より早くきて情報を把握する必要がある。細かい情報を把握したり、急性期の病態変化に対応するためには一般病棟で使用しているカルテではなく、重症患者用の部門システムがあるほうがベターである。朝の1分は金の1分なので、短時間で必要な情報がとれないと苦戦を強いられる。
で、重症患者管理システムをチェックすべき理由は何か?それは非常に金がかかるからである。システムを麻酔科やERにも導入したり、保守、アップデート、仕様変更などそれはもう莫大な金がかかる(導入だけでも1億とか…)。すでにシステムがある施設のほうが覚悟が決まっているといえよう。
4.集中治療科にある程度人がいる
集中治療科は1人では成り立たない。1人でベッド6−8床診るのは可能だが、急変や新患1発で、他の患者に目が届かなくなる。集中治療医の役割は、患者や他科の困ったを解決することなので、ある程度マンパワーがないと、すぐにこちらが困った、に追い込まれる。というわけで、ある程度人がいた方が良いと思う。自分がビッグネームで、人を集められるぜ!というならばこの限りではない。
5.院内に顔見知り医師が最低1人はいる
必要条件ではない、が居てくれると何かと情報源になったり相談相手になってくれたり、と心強い。ただし、顔見知りが病院の中で信任を得られている人であること。そもそも集中治療医、というのは一般的に何ができるのか知名度はかなり低いと思うので、顔見知りを介することで早期に他科と信頼を形成できるだろう。
6.勤務スタイルや待遇が自分の価値観とマッチしている
給料が満足か?家族との時間は十分とれるか?は、組織で長く続けていくには不可欠である。入ってから改善、というのも可能な余地があるが期待はできない。すでに良い環境であるほうがより良い。
7.他科がある程度揃っている
大きめの病院といっても神経内科、膠原病内科、呼吸器内科、感染症内科はいそうでいなかったりする。ある程度、科が揃っていないと苦しい場面もたまに出てくることになる(例:CTでUIPパターンある患者さん、機械工の手がある気がする…7日後の膠原病&呼吸器内科非常勤にコンサルトするまでどうしよう…挿管とBALしてMDA5提出するのは一本道としても、ステロイドパルスに踏み切るべきか?)。ただし、心臓メイン病院の集中治療部門など患者層が大きく偏っており、集中治療医の程度役割が明確な場合には、転送したりでなんとかなることもあるかもしれない。
・信長の野望じゃないんだから、姉小路家プレイはやめておいたほうが良い。全て0からの異世界スタートは無謀にも程がある。上層部、というとどこまでたどるのか難しいところだが、私立病院ならば本体の部分まで一応視野にいれておいたほうがよいと思う(裏は取ってないけど→https://gendai.media/articles/-/95885?imp=0)。病院長はジッツの元教授だったりすることもあるので、病院長が代替わりで方針変換→集中治療科はいらない、という不可避なイベントがあったら諦めるべし。いちおうプレゼンスを高めることでイベント回避できる可能性はある。
・集中治療医の実働は、意思決定がお仕事である。感情に左右されないAIくんによる意思決定は、とても親和性が高いと思う。長期的にはカルテにAIが導入され、問診、退院サマリや紹介状などの書類業務、SOFAスコアなどの入力など全てやってくれたら圧倒的生産性を生むと思うのだが…しかし経営側から見ると、医療の利益率が低くカルテを更新したとてすぐに収益に跳ね返ってくれるわけではない(突然、医者が働き出すわけではない)ので、莫大なお金をかけてカルテ整備をしよう、という気になる訳もない。薬剤部門システムや医事課部門システムなど、病院のシステムは複雑怪奇であるため、ただでさえ人材不足のデベロッパーも良いシステムを作ろうなんて思うわけもないんじゃないか(→https://twitter.com/JapanTank/status/1782434284432982065)。病院の電子カルテシェア上位2種類、富士通とSSIで50%超である。これ以外のカルテってどうなのよ。。。聞いたこともないカルテシステムを使っているところはやめておきなさい。あーGoogleやMicrosoftあたりが開発してくれたら喜んでアイデアだすけどなあ。
・なお、集中治療医視点で重症部門システムに求める最大のポイントは視認性(GUI)である。ぱっとみて直近に何が起きたか?今どんな薬剤が投与されているのか?などが瞬時に把握できるカルテでなければならない。ICUではプロブレムの抽出→鑑別→現状に対応→次の一手というプロセスが最も大切であり、現況が分からなければプロブレムが抽出できず、トレンドがわからなければ鑑別が絞り込みにくく現状へ対応できないからである。これを力説しても、ベンダーの営業は「はあ?」みたいな顔をしつつ「(そんな理屈はいいから)有償対応です」というのがオチであった(数敗)。
・とここまで書いてきてなんですが、円安で材料費や光熱費が上がっており、病院の経営も少しずつ苦しくなっているご時世である。いい条件だと思っても、状況が変わればそうでなくなることも起こり得る。上記入念に確認したとて、異動してみるまでわからぬ博打である。思い切って行動してみよう。でも撤退ラインは必ず事前に決めておくこと。Zugzwangといっても、手番は常に自分にあり、勝負し直すこともできる。
・人間の本質に関する普遍的事実と人が踏み入れていないニッチな分野を掛け合わせることを実行し続けた、日本医療会の傑物に関する記事(https://note.com/yuyamurakami/n/nf9092f515e5f#e35deabd-1886-4565-8b83-47af3b15ac50)。最近読んだNoteの中で一番痺れた記事でもある。
なし
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