ICUの経験則(通常編)
以前に、新人アテンディング向けの経験則というネタがあったが、こちらは一般(?)向け。
一般化が強いぶん、エッジの効いた前回のものよりも、唸るものが多い。
参照:https://www.mcgill.ca/criticalcare/education/teaching/teaching-files/rules-thumb-icu
【ICUの経験則】
→若手のうちはついつい頭が茹だってしまうと原因究明を忘れることもあった(ECMO入れてる時とかね)。トレーニングすればこういったことは発生しない。急変の場や混乱したら、”原因、結果、未来”と念仏を唱えろ。ここでいう未来とは次に何が起こるのか?次の一手は?ということ。この3つは同時並列思考する。
2.心肺蘇生法の担当者は一人でなければならない。蘇生チームのメンバーは、業務の委譲を受け入れ、その業務に集中し続けなければならない。
→蘇生リーダーが頭使う時間を捻る出すのが、メンバーの役割。メンバーは結果(現状の改善)に注力せよ。
3.チームの全メンバーがACLSに精通していることが必要である。
→同上。蘇生リーダーは、自分の時間を奪われないように、まずは場を制圧して蘇生チームを組織する。生み出した時間で、原因と未来への対応せよ。
4.洞性頻脈を薬で遅らせてはならない。原因を治療する。
→原因、結果、未来。頻脈は結果。
5.ショックは血圧ではなく灌流が問題である。四肢の温かさ、良好な尿量、正常な精神状態など、灌流が十分か不十分かの徴候を常に評価する。
→相手を動かしたいときには”プレショックでやばいです”といって騒げばOK。大丈夫なんで、といっている相手に食い下がるときに使う、よくあるシーン。なお、集中治療医同士でプレショック、なんて発言しようものならファイトクラブ勃発は避けられまい(現実的に使って相手を動かすよ派 vs プレショックなんて存在しない派)。
6.患者が敗血症かどうか不明な場合は、患者がどの程度の病気なのかを自問する。患者が重篤(血行動態が不安定、または不安定になる可能性がある)であれば、直ちに推定的抗生物質療法を開始する。そうでない場合は、培養を行い、経過と培養結果を見守る。
→Watchful waiting戦略。ICUではガイドラインもある通り、発熱の原因リストだけでも27個ある(Crit Care Med . 2023 Nov 1;51(11):1570-1586.)。抗生剤投与する場合は、開戦ライン(どうなったらどういう細菌と臓器を想定して抗生剤開始するのか?)と撤退ライン(抗生剤をもしも開始するならいつ抗生剤をやめるのか?)を決めておくこと。
7.新たな興奮、錯乱、精神状態の変化のある患者を評価するために呼ばれたときは、単に鎮静剤を投与する前に、低酸素症、高炭酸ガス血症、低血糖、不十分な脳灌流、薬物反応(他の原因も含む)の可能性を常に考慮する。
→せん妄の裏に潜むNOMI(悪夢)。
8.原因不明の腎機能低下または乏尿の患者に直面した場合、呼吸障害を伴う容積過多の徴候がすでにない限り、通常は腎機能低下前であると仮定し、輸液を行う方が賢明である。
→裏を返せば利尿薬への反応が良好ならHypoを心配して(3合液で)追いかける必要はありませんよ。Hypoになればきっと利尿薬への反応がなくなるので。
9.急性脳損傷(の患者に直面した場合は、二次脳損傷の可能性を最小限に抑えるようにする。高血糖、低血糖、低酸素、低血圧、発熱、電解質異常は避ける。
→神経システムの基本。
10.ほとんどの治療法には有益な効果だけでなく有害な効果もあることを忘れてはならない。望ましい治療エンドポイントまで治療を漸増することが重要であり、その際、副作用に対する漸増も考慮する必要がある。
→ここはバランスが難しいときもある。リスクベネフィットを考えて採血での肝機能上昇や腎機能上昇に多少目をつぶって進むこともある。予期せぬ挙動を示したときに、”自分がやったこと”を鑑別にあげられる強さは必要、ということだろう。
11.ICUで賢くなることは役に立つが、細かいことに注意を払うことはもっと重要である。
→勉強ができるのと、細かいことに注意を払えるのは能力としては全くの別物。激しいADHDのフェローでなければ、後者も後天的に伸ばすことができる。
12.モニターではなく患者を治療する。
→原因、結果、未来。モニターは結果。
13.当たり前のことを当たり前だと思わないこと。
→臨床研究のお供に。
14.医学には不変のものはない。
→経験頼りだとすぐに陳腐化する指導医のこと?反省します。
15.検査を指示する前に、陽性だったらどうするか、陰性だったらどうするかを決めておく。それぞれの答えが同じなら、検査はしないこと。
→そのオーダーしようとしている、CTと採血検査と毎日撮影しているポータブルレントゲンのことやぞ!!!!だが、現実的には相手によって反応(答え)は変わる。例えば、βDグルカン提出して喜ぶのが◯◯科、顔が険しいのが感染症内科。前者は何かをやったことに、後者は何かをやってしまったことに反応している。上手な断り方も学ぼう。
16.どの臓器も単独では決して障害しない。
→心臓と肺、心臓と腎臓的な。肝硬変やくも膜下出血など、プロブレムが病名であってもすべてのシステムに問題を起こす。
17.3つの基本ルール、「誰も信じるな」「何も信じるな」「酸素を投与せよ」を忘れないでください。
→突拍子もない仮説も思いついたら、誰かに棄却されても必ず吟味せよ。酸素を投与せよ、はどゆこと?自分に?「フォースを信じろ」の間違いでは?
【コメント】
・書いてあることは多くが普通。しかしながら、この普通はとても重要。フェローには知っていてほしいし、内容も素晴らしいのでこのまま丸パクリしてフェローマニュアルに転載したい。
・ただ、あといくつか付け加えたい点もある…が一旦このままでそのうち自分の経験則をまとめよう。
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