2024年10月6日
2024年10月6日
A.上昇する。ただし、臨床的な影響は軽微と考えられる。PEEP10(〜15)cmH2Oまでは肺保護換気を優先しつつ、気にせず使用してよい。
PEEPは胸腔内圧を上げるため、静脈還流減少が起こる。一方で、PEEPにより肺がリクルートメントされれば換気効率が改善し、PaCO2を下げることで脳血管の拡張を防ぐことができるかもしれない。
前者は、脳からの血液灌流を減らすために脳浮腫が悪化するのでは?という懸念を引き起こす。しかし、(理論上は)スターリンの抵抗機という概念により、ある程度のPEEPでも静脈還流量は低下しない。
血液は圧較差によって還流する。
脳動脈圧>脳静脈圧だから動脈→静脈に流れる。
さらに脳静脈より下流には、頭蓋内圧(P intracranial pressure)と静脈が合流して上矢状洞圧(P sagittal sinus)があり、最終的に右房圧となる。
脳動脈圧>脳静脈圧>頭蓋内圧>上矢状静脈洞圧>右房圧だから血液が流れるわけである。
図にすると下図になる。
ここで頭蓋内圧だけは血管の圧ではなく、血管周囲組織からの圧となる。
脳が腫脹していれば頭蓋内圧が高いため、血管の還流圧は脳動脈圧>頭蓋内圧の差によって規定されることになる(頭蓋内圧が高いと>>上矢状静脈洞圧>右房圧となるため)。
仮にPEEPを上げて右房圧が高くなったと仮定しても、脳動脈圧>頭蓋内圧>>上矢状静脈洞圧≒右房圧となるため、還流そのものは低下すれど、やはり還流量を規定するメインは脳動脈圧と頭蓋内圧の圧較差。ということになる。
観察研究上では…
①GCS<9、10<ICP<15かつPF<300の頭部外傷患者を対象にした観察研究
PEEPで肺胞リクルートメントが起こらずPaCO2が有意に上昇する時→頭蓋内圧は有意に上昇
PEEPで肺胞リクルートメントが起きてPaO2が有意に上昇する時→頭蓋内圧は変化しない
②GCS<9かつ人工呼吸器を装着してICPモニターされた患者を対象にした後ろ向き観察研究
PF<100の患者でのみ、ICPとPEEPに関係性あり(p=0.04)
PEEP1cmH2O上昇ごとに、ICP0.31mmHg上昇していた
・脳神経外科の先生とはよくPEEPのDiscussionになるため、スターリン抵抗機を理解しておく必要がある。理想的にはICPをモニターしながら対応し、PEEPでICPが基準値を超えるようであればPEEPを引き下げるのがよいだろう。一方、ICPセンサーがない場合には、10cmH2OまではPaCO2の変化がなければ、使えるということを採用しておく事が多い。10〜15cmH2Oもおそらく問題ないだろうが、黄色信号として患者背景と変更後の変化をモニターしておく。なお、1回換気量がICPに悪影響を与えた、という明確なエビデンスはない。
・将棋の指し手は直感が70%正しいという。この直感を育てるには、データからの正しいフィードバック(と、30%の間違いをでき限り早期に体験してそこから学習すること)が肝である。直感がバグる問題の代表がモンティホール問題だが、一度答えを見れば次から指し手には困らない。
・話が飛躍すると、文献ではなく実際に集中治療医が存在することで他科が喜んだとしても、患者アウトカムをデータで見るまでは、本当に集中治療医がいて効果あったのか?は評価できないのでは…と鏡に向かって問いかけてみる。
・スターリンつながりでこれまた話が飛ぶが、ゼロトレランスは組織ガバナンスを減損する。ガバナンスとは、コントロールされた状況下で間違いを許容すること、だと思っている。コントロールされた状況下とは、正しくデータをとるリソース、フィードバックと改善をチェックするシステムが揃っている状況である。
Luce JM, Huseby JS, Kirk W, Butler J. A Starling resistor regulates cerebral venous outflow in dogs. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1982;53(6):1496-1503.
Frisvold SK, Robba C, Guérin C. What respiratory targets should be recommended in patients with brain injury and respiratory failure?. Intensive Care Med. 2019;45(5):683-686.
Boone MD, Jinadasa SP, Mueller A, et al. The Effect of Positive End-Expiratory Pressure on Intracranial Pressure and Cerebral Hemodynamics. Neurocrit Care. 2017;26(2):174-181.
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