集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

SvO2を目標にした心原性ショックの管理

2025年10月26日  2025年10月26日 

SvO2はショック患者の何を教えてくれるのか?

A.SvO2はFickの法則を使って、COを推定する時に使用する。

Fickの法則の復習:
酸素消費量=酸素を送った量ー使われずに帰ってきた量

酸素消費量=VO2
酸素を送った量(含有量)=DO2=CO×Hb×1.34×SaO2
使われずに帰ってきた量(含有量)=CO×Hb×1.34×SvO2

これを上記に代入すると、
VO2=CO×Hb×1.34×(SaO2-SvO2
式を変形して、
CO=VO2/Hb×1.34×(SaO2-SvO2

VO2が一定と仮定し、動脈血液ガスでSaO2、Hbが一定ならばSvO2の変動はCOの変動となる。
よって、SvO2のモニタリングはCOを間接的にモニタリングしているといえる。

SvO2低下=CO低下と考えると、SvO2≦50%は予後不良であると言われる。
この50%という数字に関するエビデンスは観察研究周りから提唱されているもののようである(JAMA. 1993;270(14):1724-1730.、本文未読)。他にも、例えば心停止蘇生後を対象にした観察研究では、SvO2<55%が予後不良を示唆するという研究があったりする(Crit Care . 2023 Oct 27;27(1):410.)

この背景をもとに、急性心原性ショックを対象にした即座ECMO挿入群 vs 待機的ECMO挿入群を比較したECMO-CS trialにおいても、組入基準にSvO2≦50%が採用されている(Circulation . 2023 Feb 7;147(6):454-464.)。

心原性ショックでSvO2をターゲットにしていいのか?

A.背景次第…ではあるが概ねNoと解釈している。

肺動脈カテーテルを使用して、Fick法あるいは熱希釈にてCOを計算しつつ、SvO2から酸素抽出率を測定した研究によると(N Engl J Med 1994;330:1717-1722 )

・対象のほとんどはSepsis関連で、介入群にはSvO2>70%が1つの目標としてドブタミンが使用された(正確にはCI2.5−3.5目標群 vs CI4.5以上群 vs SvO2>70%群の3群比較です)

・結果、退院時までの死亡率に3群間で有意差はなく、その他の結果にも有意差なし

・着目するところとして、SvO2ターゲット群では目標到達したのが66.7%しかおらず(CI4.5以上では44.9%、CI2.5-3.5では94.3%)、目標到達のためにより多量のカテコラミンが使用された(9.1±5.5 vs. 6.9±4.3 mg/Kg/min, P 0.001)。


→この解釈は、SvO2の高い目標を頑張ってもカテコラミンの量が増えるだけで生存率改善するわけではない。


SvO2の最大の弱点は、酸素抽出率とVO2が無視されることである。

仮にVO2が増加あるいはDO2が低下した場合でも酸素抽出量を代償的に増加させることで、micro perfusionが保たれて乳酸値は上昇しない。

(https://jpccs.jp/10.9794/jspccs.40.163/data/index.pdf)

DO2VO2の破綻だけなら、結果として起こる乳酸見てればいいじゃん、ということで行われたのが 乳酸vs SvO2の比較(N Engl J Med 1995;333:1025-1032)。

結果はSvO2見なくても乳酸値モニターで代用可能では?という感じ。


多くの施設はScvO2あるいはSvO2をターゲットにしているのではなかろうか。
実際、Impellaを使った管理プロトコルにおいても、ScvO2>65%を目標に管理する施設があるよう(J Cardiol . 2020 Mar;75(3):228-232.)。

では、大規模研究ではSvO2ターゲットにした治療は効果があったのか?
結論、SvO2≧70%を5日間目指しても、生命予後は改善しない。

・対象はICU入室してSAPS≧11の患者群で、急性心筋梗塞は除外。pilot研究時点で患者属性は術後(36%)と急性腎不全(22%)で半数以上。ショック(6%)と敗血症(7%)は少ない

・目標はCI 2.5〜2.5 vs CI 4.5以上 vs SvO2 70%以上の3群比較

・3群でICU退出率や退院時点での臓器障害率は変わらない

・SvO2を目標にした群の達成率は66.7%、CI4.1、MAP89mmHg。


自前でSvO2を推測すると…

SvO2がどのような分布になるかを推定してみる。
Pythonでモンテカルロシミュレーションを行う。
Hb:10g/dL SaO2:95%で固定、CO:3-4L/min VO2:150-250ml/minで幅をもたせる
以下をPythonにぶち込む

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

# -------------------------------
# 定数の定義(変更可能)
# -------------------------------
Hb = 10                   # ヘモグロビン濃度 g/dL
SaO2 = 0.95               # 動脈血酸素飽和度 (例: 0.95 → 95%)
O2_binding_capacity = 1.34  # Hb 1gあたりの酸素結合容量 (mL/g)

# VO2とCOの範囲を設定
VO2_min, VO2_max = 150, 250       # 酸素消費量 mL/min
CO_min, CO_max = 3.0, 4.0         # 心拍出量 L/min

# -------------------------------
# モンテカルロシミュレーション設定
# -------------------------------
n = 10000
VO2_samples = np.random.uniform(VO2_min, VO2_max, n)
CO_samples_L = np.random.uniform(CO_min, CO_max, n)
CO_samples_dL = CO_samples_L * 10  # 単位調整: L/min → dL/min

# SvO2の計算(Fickの原理)
SvO2 = SaO2 - VO2_samples / (O2_binding_capacity * Hb * CO_samples_dL)
SvO2_percent = SvO2 * 100

# -------------------------------
# 結果のプロット
# -------------------------------
plt.hist(SvO2_percent, bins=50, edgecolor='black')
plt.title('Monte Carlo Simulation of SvO₂\n(VO₂: 150–250 mL/min, CO: 3.0–4.0 L/min)')
plt.xlabel('SvO₂ (%)')
plt.ylabel('Frequency')
plt.grid(True)
plt.show()

# -------------------------------
# 統計出力
# -------------------------------
print(f"SvO₂ 平均: {np.mean(SvO2_percent):.2f} %")
print(f"SvO₂ 標準偏差: {np.std(SvO2_percent):.2f} %")
print(f"SvO₂ 最小値: {np.min(SvO2_percent):.2f} %")
print(f"SvO₂ 最大値: {np.max(SvO2_percent):.2f} %")


結果→平均52.06%、標準偏差7.22%、最小値33.23%、最大値66.85%
   VO2をやや高めに設定したが、52%でも状況によっては”足りている”ということに。
   原理的に、COが高いときにはSvO2は高い値をとるが、
   COが低いときにはSvO2がバラけるという図の通りである。

ScvO2による心拍出量の推定

心臓外科術後と先天性心疾患を除外した研究のメタ解析によれば、
・ScvO2はSvO2と比較して2.98%低い(95% limit of agreement of –12.5% and 18.4%)
・ScvO2によるCIの推定は参照CIと比較してスピアマンの順位相関係数が0.47 (95% CI 0.46–0.48、 p < 0.0001)

ただし、メタ解析に含まれる研究が2010年以前のものがほとんどで、小規模研究というLimitationあり。

著者らは、ICUでの小規模な研究では、CI決定のためのScvO2を評価したN=25の小規模研究で、Svo2と心指数との間に弱い相関関係(r = 0.64)があることに触れつつも、”低心拍出状態の誤診の可能性は患者管理に重大な影響を及ぼす可能性があります”と述べている。

コメント

・自分はScvO2(あるいはSvO2)をターゲットにカテコラミンを上げるという行動はしない。しかし、50%以下や90%以上の場合には立ち止まってアセスメントをし直す方が良さそうである。特に40%以下は明らかにおかしい可能性が高い(JAMA. 1993;270(14):1724-1730.)。

・とはいっても、施設によってはSvO2をターゲットにする普通のプラクティスだったりして興味深い。確かに、心筋梗塞後の心室中隔穿孔に気づくこともある。一方でモニターのために非常に高価なカテーテルを入れるか、というとNNTは相当大きそうではある。

・(現実逃避開始)人生の帰路で困ったらモンテカルロシミュレーション、というのを何処かの本で読んだ記憶があるが忘れた。結婚相手を見つける最適解に始まり、問題解決に関しては統計学が最強のソリューションなんよな(現実逃避終わり)。

参考文献

Walley KR. Use of central venous oxygen saturation to guide therapy. Am J Respir Crit Care Med. 2011;184(5):514-520.

Motazedian P, Beauregard N, Letourneau I, et al. Central Venous Oxygen Saturation for Estimating Mixed Venous Oxygen Saturation and Cardiac Index in the ICU: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2024;52(11):e568-e577.

Gattinoni L, Brazzi L, Pelosi P, et al. A trial of goal-oriented hemodynamic therapy in critically ill patients. SvO2 Collaborative Group. N Engl J Med. 1995;333(16):1025-1032.
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