集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

経鼻十二指腸チューブを盲目的に挿入する方法

2025年11月23日  2025年11月23日 

 経鼻十二指腸チューブについて 

ICUにおける適応は、胃の蠕動運動傷害があり、頻回嘔吐を起こす場合である。
メリット:誤嚥リスク減少、栄養投与できない患者では栄養投与量増加、
デメリット:ダンピング症候群を起こすため栄養のボーラス投与はできない、留置の手間がかかる、下痢や腹部膨満が増える、胃内逆流が完全に制御できるわけではない

盲目的挿入方法 

そもそも盲目的に挿入してよいのか?
日本集中治療学会のガイドラインでは盲目的な留意に関して、”各施設で日常的に使用されている方法を実施することが推奨される”ということで、特に禁止とはしていない。
世界的には、看護師が盲目的に挿入する国もあるようだ(中国:Crit Care . 2021 May 11;25(1):168. 米国:PEN J Parenter Enteral Nutr. 2023 Feb 20;47(4):494–500. )。
というわけで盲目的に挿入はOK。

盲目的留置方法に関しては様々な方法が提案されているが…

CORPAK 10-10-10 method(Intensive Care Med . 2006 Apr;32(4):553-6.)

1. 臨床的に禁忌でない限り、メトクロプラミド10mgを(過去4時間以内に投与していない場合)ゆっくり静脈内注射し、10分間待ってからチューブ挿入を開始する。
2. 細径チューブの先端に水性ジェルを塗布する。
3. チューブを患者の鼻から耳を経て剣状突起まで測定する。
4. 患者を理想的には30°の半仰臥位とする。
5. チューブを鼻孔から進め、先端を鼻中隔および硬口蓋上表面と平行に保ちながら鼻咽頭へ挿入し、事前に測定した長さ(約40cm)に達するまで進める。
6. 胃内挿入を確認する。
7. チューブ内ワイヤーを潤滑するため、0.9%生理食塩水1mlで洗浄する。
8. チューブをさらに15cm進めるまで、抵抗を感じたら引き戻しながら、優しく押し続ける。チューブの通過を確認する。
9. これを行うには、ガイドワイヤーを少し(5cm以内)引き戻す。ガイドワイヤー引き戻し時に抵抗がある場合、チューブが胃内でコイル状に巻かれている可能性が高い。この抵抗は、ガイドワイヤーを引き戻す際に「ポコッ」と音がするような感触で特徴づけられる。
10. チューブが巻き付いている場合は、ガイドワイヤーが自由に操作できるまで、5cmずつゆっくりと引き戻す。
11. チューブの挿入を再度ゆっくり継続するが、70cm、75cm、80cm、85cm、90cm、95cmの位置でチューブが巻き付いていないことを確認する。以後、手順9および10に従う。
12.95cm地点までチューブが巻き付くことなく到達したら、チューブをゆっくり105cmまで進め、空腸への確実な留置を確認する。
13. 手技開始から20分以上経過している場合、NGチューブ経由で胃に200mlの空気を注入する。その後20分間、チューブ通過の試行を継続する。
14. 最終的なチューブ位置の確認:
 – 吸引時に大量の空気(> 20 ml) が吸引される場合、チューブは食道または胃の上部に留まっている可能性が高い。
 – 吸引時に20ml以上の分泌物が得られた場合、チューブは胃内に留まっている可能性が高い。これらの分泌物は通常pH<5.0である。
 – 鮮黄色の分泌物が5~10ml以下しか得られない場合、チューブは小腸内に留まっている可能性が高い。小腸からの分泌物はpH6~7である。
 – 分泌物が全く得られない場合、チューブに10mlの空気を注入する。吸引を試みた際に抵抗が感じられる場合、チューブは小腸内にあると判断できる。
 – チューブを10mlの0.9%生理食塩水で洗浄する。5ml未満しか容易に吸引できない場合、チューブは小腸内にある可能性が高い。
 – チューブを0.9%生理食塩水10mlで洗浄する。5ml未満が容易に吸引できる場合、チューブは小腸内にある可能性が高い。
15. ガイドワイヤーを抜去する。ワイヤーが滑らかな外観を維持している場合、チューブは
小腸内にあると判断できる。チューブを患者の頭部に固定する。
16. 上腹部X線撮影による留置位置確認を依頼する。空腸への留置が成功した場合、チューブは
患者の左から右へ正中線を横切り、その後再び右から左へ横切る様子が確認できる。
17. 留置が確認でき次第、経鼻経管(NG)経路による栄養補給を再開する。NGチューブは留置したままとし、胃への栄養液逆流を確認するため4時間ごとに吸引する。

→成功率90%、中央値18分

日本から報告された方法J Crit Care . 2013 Dec;28(6):1039-41.

1. チューブを約70cm挿入後、5mLの空気を注入し、上腹部領域で気泡の発生を確認する。
2. 気泡が確認されたら、スタイレットを5cm引き抜き、チューブを徐々に進める。空気を注入しながら触診し(最初は上腹部に手を当てておく)、気泡の位置が上腹部から右肋骨下部に移動するのを確認する。チューブが胃体部や胃穹窿部で折り返した場合、気泡は確認されない。この場合、管をゆっくり引き抜き、上腹部で気泡が確認できる位置まで戻す。
3. 管を80cmまで進め、肋骨下部の気泡を触診で確認し位置を確定する。
4. チューブをさらに進め、肋骨下領域で気泡が明瞭に感じられない、または検出できないことを触診で確認する。他の部位で気泡が強く検出される場合は、肋骨下領域で気泡が検出されるまでチューブを引き戻す。
5. チューブを100cmまで挿入し、スタイレットを引き抜き、腹部X線撮影を用いてチューブ先端の位置を確認する。

→成功率95.1%、平均15分

ガイドワイヤーを曲げる方法JPEN J Parenter Enteral Nutr . 1986 Jan-Feb;10(1):104-5. Chest . 1991 Dec;100(6):1643-6.

1.スタイレット(原著ではスタイレット、今はガイドワイヤーを使用する製品が多いと思う)抜去を容易にするため水で洗浄する。
2.次にスタイレット先端直近30°で曲げ、チューブを鼻腔経由で胃へ挿入する。チューブ上の最初の黒印が鼻に達するまで進める。下咽頭部でのスタイレットの折れ曲がりには特に注意が必要である。
3.胃内位置は30mlシリンジによる断続的な空気注入で確認する。聴診器で左上腹部および上腹部全体に伝わる低音の共鳴する泡音が聴取される。胃内にチューブがある状態では、通常空気または胃液を容易にシリンジへ吸引できる。
4.その後患者を右側臥位(60~90°傾斜)に配置する。
5.チューブをゆっくりと前進させながら回転させ、これによりチューブの重り付き先端部を幽門部へコルク栓抜き状に通過させる。先端部の正しい移動は、通常、適度で持続的な挿入抵抗として反映される。
6.2つ目の黒印を通過した時点で、再度空気を注入する。幽門通過は聴診器で容易に判別可能であり、右中腹部で聴取される泡音の高音化(左上腹部への伝播は最小限)が指標となる。この時点で空気注入が依然として胃内留置を示唆する場合、チューブを最初の黒印まで引き戻し、通常は患者の体位をさらに仰臥位に近い状態に調整しながら再挿入し、聴診器で幽門通過を確認する。音が左上腹部と右中部腹部の両方に伝わる場合、チューブ先端が幽門に位置していることを示す。
7.その後チューブをゆっくり進め、チューブのハブを鼻にテープで固定できる位置まで到達したらスタイレットを抜去する。再度空気を注入して位置を確認し、右中部腹部に音が伝わる場合は十二指腸第一部または第二部に位置していることを示す。管が十二指腸遠位部または空腸近位部に到達すると、伝導音が左上腹部に戻る。空気の通過不良は管の屈曲を示し、通常は管をゆっくり引き抜きながらワイヤーを慎重に前進させて「屈曲解除」できない限り、挿入をやり直す必要がある。
8.栄養投与開始前にKUB検査で最終位置を確認する。


CHEST論文もほぼ一緒だが違う点は、
・曲げる位置は、先端から3cmの部分を30度
・先にレントゲンを撮影して肺内に無いことを確認してから進めていく
・幽門を超えるのは、手先の感覚と空気音に加えて、吸引して空気が引ければ胃内、pHを測定して4-5なら胃内と判断

→成功率92%、平均40分

コメント

・頻度も少なく、盲目的挿入はしたことがなかったのだが、遭遇したので調べることに。挿入して何もせず自然な先進を期待すると5~15%で勝手に先進することがある(World J Gastroenterol. 2014 Jul 14;20(26):8505–8524.)。よって、急ぎではないが…という場合には100cm程度留置して待っておく、という対応をしたことはある。手技的にできるようになれば、消化器内科の負担も減らせてとても良い。

・頻度は多くないが、想定される患者群は急性膵炎とか…?手技としては、そんなに有害性もなさそうで試す価値はありそう。盲目的挿入法はいくつか提唱されているが、眺めたところ日本から報告された方法が、こんな方法でできるの?ってことで、なんとなく良さそうな印象。ワイヤーを少し曲げて形を作ることで、さらに成功率上がるかも?

・…といってるうちに、早速実施する機会に恵まれた。初回ながら、仰臥位で5分くらいで挿入可能であった。事前にワイヤーに蒸留水を入れて水通ししておけば曲げてもスタイレットは抜去できた。1人でやると聴診しながらは不可能であり、右まわしのねじれ反動が発生するためにチューブを抑えながら上腹部で空気を入れつつ触診という忙しい状態になる。そうなると触診の感覚は正直わかりにくかった。2人でやったほうがいいかも。

 参考文献

Lee AJ, Eve R, Bennett MJ. Evaluation of a technique for blind placement of post-pyloric feeding tubes in intensive care: application in patients with gastric ileus. Intensive Care Med. 2006;32(4):553-556.

Kohata H, Okuda N, Nakataki E, et al. A novel method of post-pyloric feeding tube placement at bedside. J Crit Care. 2013;28(6):1039-1041.

Thurlow PM. Bedside enteral feeding tube placement into duodenum and jejunum. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1986;10(1):104-105.
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