診断することの難しさ
ICUにおけるカンジダ感染の診断は、真菌学的検査(無菌部位からの同定)+臨床症状(眼底病変または、臨床経過で感染が疑わしい中で説明不能の放射線検査所見)によってつけられる。
しかしながら、定義を満たして診断することについて独特な難しさがある。
事実、感染症症状出現〜診断して抗真菌薬開始までの中央値は最大8日と言われている。
診断が難しい原因は…
1.カンジダの血液培養陽性率が低い
→侵襲性カンジダ症はカンジダ血症+深在性カンジダ症の2つに分かれる。深在性カンジダ症は血液培養陽性とならないため、全体として侵襲性カンジダ症の血液培養陽性率は〜50%と低い。
2.検体は泌尿器や消化管の穿孔後24時間以内のものであってはならない
→穿孔による汚染を見ただけの可能性があるため。
3.Candidaの種類によって培養陽性までの期間が異なる
→C. glabrataはC. albicansよりも増殖が遅い。陽性判明までに、2〜8日とバラつく。
ICUで先制治療を行うか?
A. 好中球減少患者でなければ、No。
では、カンジダコロナいぜーションがあり、易感染性かつICUに入室する患者に先生的みエキノキャンディン系抗真菌薬を経験的治療することは有益だったのだろうか?
これを検証したのが、EMPILICUS studyである。
対象:カンジダ属菌の定着部位が 1 箇所以上ある、好中球減少症ではなく、移植を受けていない、重篤な成人患者 260 名
介入:14 日間のミカファンギンの経験的投与
対照:プラセボ
主要評価項目:侵襲性真菌感染症が確認されていない 28 日間の生存率
→侵襲性真菌感染症の発生は減少したが、28日死亡率は有意差なし
注意点として、侵襲性真菌感染症のリスクが高い術後消化管漏出症および急性壊死性膵炎患者群の参加率は低かった。また、ICU毎のプラクティスにばらつきがあることからも、外的妥当性に関してはなんとも言えない。
ただし、Negative studyであり結果の解釈としては「先制攻撃を支持する結果ではない」ということは間違いない。
その他、様々なプラセボと比較したRCTでも…
・腹腔内汚染で手術が必要なICU患者に対する研究(Clin Infect Dis . 2015 Dec 1;61(11):1671-8)
→侵襲性カンジダ感染を予防できず
・ICUでリスクがある患者に対するカスポファンギンの研究(Clin Infect Dis . 2014 May;58(9):1219-26.)
→侵襲性カンジダ感染を予防できず
・広域抗菌薬を投与中でも発熱する重症ICU患者に対するフルコナゾール(Ann Intern Med . 2008 Jul 15;149(2):83-90.)
→複合アウトカム有意差なし
と、非好中球減少のない患者群で、誰を先制治療すべきかはっきりしないのが現状である。
検査について
β-Dグルカン
感度75~80%、特異度約80%。FUNDICUガイドラインによれば”特異度が低く、さらなるエビデンスが蓄積されるまでは、深在性カンジダ症の定義には含めない”、と。
特異度の問題以外にもガーゼ、抗菌薬(ピペラシリン・タゾバクタムなど)、血液透析(セルロース膜)、免疫グロブリン投与中、肝障害、GPC菌血症などによる偽陽性が問題になるため、β−Dグルカンを理由に開始することはできない。
一方で、陰性的中率が高いため、Empiricalに開始した場合に、80 pg/mL以下であれば中止、ということは可能。
マンナン抗原/抗体
βDグルカンより特異度は高い。マンナンと抗マンナン抗体の併用検出により、感度は58%から83%へ、特異度は59%から86%へ向上する。
multiplex PCR
感度90~95%、特異度90~92%と感度は高いが、死滅した菌/ただ保菌しているだけの場合もPCR陽性となる。また、検出限界は10 CFU/mL未満であり感染初期の菌量が少ない時や、好中球減少や肝硬変などの低菌量でも有害な患者背景がある際にもPCR陰性となる。
さらに、菌株(C. glabrata)によるカンジダ血症患者において、カンジダ属血液培養の半数でCFU/mLが≤1であったという報告もあるため、陰性であったときに解釈を要する。
β-Dグルカンが偽陽性になるだろう、と思しき患者では早期除外の(あくまで)補助になる。
T2 candida
PCRとT2磁気共鳴技術を組み合わせたもの。日本では臨床使用できない。
検出限界は1 CFU/mLで、感度89~91%、特異度98~99%。
カンジダスコアはICUで有用か?
A.陰性的中率が高いため、否定はOKだが治療開始するかどうかは使えない。
カンジダスコアの原著はsurgical ICUに7日以上入院した非好中球減少の1699名を対象にして作成されたスコアリングである。
単変量解析で有意であった因子を使って、最適なロジスティック回帰モデルを作成。
患者特徴としては年齢58.5±17歳、APACHE2スコア中央値18点(予測死亡率24%)。
カンジダ群が特徴的なのは、ICU滞在期間中央値が28日で87.6%がTPNを使用していた。
患者群1699名の内訳は、定着も感染も認められない群719名(死亡率33.2%)、単一または多発性カンジダ定着群883名(単一で死亡率26.5%、多発で死亡率50.9%)、確定カンジダ感染症群97名(死亡率57.7%)だった。
カンジダ感染の内訳は、58例がカンジダ血症、30例が腹膜炎、6例が眼内炎、3例がカンジダ血症と腹膜炎併発。症状出現から抗真菌薬開始まで中央値12日だった。
モデルではカットオフ値2.5で真菌学的検査(血液など無菌部位からの同定)、組織学的検査または眼底病変に対して、感度81%、特異度74%と報告した。
その後、ICUでの外的妥当性を検証した小規模観察研究では感度94%特異度40%と報告されている(Indian J Crit Care Med. 2017 Aug;21(8):514–520. )。
コメント
・死亡率4−50%なのは、診断の難しさも寄与していそうである。2025年の最新レビューでも、診断の難しさに関しては一貫しており、昔の知識とほとんど変わらない状態だ。5年〜10年スパンで新しい抗真菌薬以外には新しい発見がなかったということがよく分かる。
・長期的には耐性菌問題の懸念もあるため、安易な抗真菌薬投与はしたくはないが…ということでいつ治療に踏み切るか、いつ中止するか、という悩ましい問題はしばらく続きそうである。メタ解析などから自分の中で病像を形成するしかない。直近で発表されたメタ解析によると、侵襲性カンジダ感染症のリスクは…(Chest. 2022;161(2):345-355.)
✔72時間以上の広域抗生物質(OR、5.6; 95% CI、3.6-8.8)
✔輸血(OR、4.9; 95% CI、1.5-16.3)
✔カンジダコロニー形成(OR、4.7; 95% CI、1.6-14.3)
✔中心静脈カテーテル(OR、4.7; 95% CI、2.7-8.1)
✔静脈栄養(OR、4.6; 95%CI、3.3-6.3)
・ここまでの勉強から「いつ?」というタイミングについて振り返る。自分のプラクティスである「長期滞在患者で敗血症になった患者群というのが1つのトリガー、そこからカンジダ保菌や静脈栄養を投与している人」に加えて「2週間を超えて」というのを付け加えたいと思った。2週間というのは、流石に25年ほど経過した現在では、TPN使用割合も入院期間も更に短くなっていることを加味し、Candida scoreの原著である28日から想像して設定した。経験的には、1週間以内に検出するひとは、最初の血培から検出していた人を除いてほぼおらず、2週間超えてぐずついている状態で検出…という病像だったような気もする。
・患者の陰部が白っぽいのでニゾラール出してください、というのはカンジダスコアに含まれ…る訳はない。
参考文献
Alves J, Alonso-Tarrés C, Rello J. How to Identify Invasive Candidemia in ICU-A Narrative Review. Antibiotics (Basel). 2022;11(12):1804. Published 2022 Dec 12.
Bassetti M, Giacobbe DR, Agvald-Ohman C, et al. Invasive Fungal Diseases in Adult Patients in Intensive Care Unit (FUNDICU): 2024 consensus definitions from ESGCIP, EFISG, ESICM, ECMM, MSGERC, ISAC, and ISHAM. Intensive Care Med. Published online March 21, 2024.
Martin-Loeches I, Cornely OA, Denning DW, Guinea J, Bassetti M, Maertens J, Hoenigl M, Kanj SS, Slavin M, Ostrosky-Zeichner L, Muñoz P. Invasive candidiasis in intensive care medicine: shaping the future of diagnosis and therapy. Intensive Care Med. 2025 Oct 21.
Kreitmann L, Blot S, Nseir S. Invasive fungal infections in non-neutropenic patients. Intensive Care Med. Published online October 21, 2024.
León C, Ruiz-Santana S, Saavedra P, et al. A bedside scoring system ("Candida score") for early antifungal treatment in nonneutropenic critically ill patients with Candida colonization. Crit Care Med. 2006;34(3):730-737.
Thomas-Rüddel DO, Schlattmann P, Pletz M, Kurzai O, Bloos F. Risk Factors for Invasive Candida Infection in Critically Ill Patients: A Systematic Review and Meta-analysis. Chest. 2022;161(2):345-355.
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