集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

脂肪吸引後の重大な合併症

2026年1月18日  2026年1月18日 
基本的に、不要な脂肪を吸引除去する——これが脂肪吸引術の基本定義——という作業自体は容易である。全体的な輪郭形成のために除去すべき量、滑らかな被覆のために残すべき量、そして皮膚の収縮性をどう判断するかが、我々の専門分野における芸術性の頂点と言える部分である。 〜 Liposuction principles and practice, 2nd edition

脂肪吸引とは具体的に何をする?

脂肪吸引(liposuction)とは、皮下脂肪を選択的に除去することで体表の輪郭を整える美容外科手術である。

初ケースは意外と古く、レビューによれば1921年にダンサーの膝とふくらはぎを手術した記録があるらしい。その症例は残念ながら、動脈損傷により下肢切断となってしまった様だ。
その後歴史的な手技や器具の発達を経て以下のような手法で不要な脂肪を除去する。

Suction-Assisted Liposuction (SAL):
300~600mmHgの吸引圧のカニューレを動かすことで脂肪を吸引。脂肪層は、垂直性の線維性隔壁で区切られた密な層とその下に疎な層がある。この線維性隔壁を破壊すると、皮膚にひきつれが発生するが、これを応用して用手で意図的に腹筋のシックスパックを作ることができるらしい。

Ultrasound-Assisted Liposuction (UAL):
超音波エネルギーで脂肪を溶解させ効果的に吸引する。デメリットは技術を要する、切開線が大きくなること、発生した熱により皮下組織の熱損傷が発生しうる。シリーズの研究では、脂肪吸引量増加、出血量減少、手術速度短縮、術後の快適性でメリットがある。皮膚熱傷に嫌気がさされて、実施される割合は低下傾向らしい。

Laser-Assisted Lipolysis (LAL):
レーザーで脂肪を溶解する。皮膚切開が2mmとわずかで、皮膚収縮作用も期待されたが、研究結果では優位性は示せずFDAも認可しないと散々。SALに対しても優位性は示せず。速度が遅く、小範囲の除去用。

Power-Assisted Liposuction(PAL):
道路工事のジャック・ハンマーの如く、前後に高速(2000-4000サイクル/分)で動くことで脂肪を破壊吸引する。文献的には回復期間の短縮、施術者の疲労軽減に加え、外傷・腫脹・皮下出血の軽減が示されている。


起こり得る合併症とその病像

合併症の発生率は0.4%〜2.6%と幅がある。

死亡率は0.026%(130/496245)で、その死亡理由の内訳は、血栓塞栓症30例、腹腔内臓器穿破19例、麻酔薬13例、脂肪塞栓11例、心または肺不全7例、感染7例、出血6例、不明37例だった(Plast Reconstr Surg . 2000 Jan;105(1):436-46; discussion 447-8.)。
リスク因子としては、基礎疾患(心疾患、呼吸器疾患、糖尿病)、喫煙、低体重や高体重(特にBMI30以上)、術者の経験不足、手術時間、脂肪吸引量が多い場合等がある。

腹腔内臓器損傷と、敗血症性ショックについては、治療が一直線でありマネジメントに困らない。気道緊急と脂肪塞栓/血栓塞栓のみお勉強。

【気道緊急】

レビューがやや古いためか、気道緊急が死亡原因に書いていない。
察するに、技術や器具の向上で頸部脂肪にも手を出すようになり、近年目立ってきたのではなかろうか。
では、頸部の脂肪吸引→皮下気腫/気腫+気道浮腫で窒息、というケースが、どういう病像や経過をだとるのか?
ケースレポートをめくると…

①ラジオ波補助脂肪吸引術後に皮下血腫+脂肪壊死に伴う上気道閉塞した21歳女性
day0 局所麻酔で実施
day1 呼吸困難感、嗄声、嚥下障害でER受診
   CTでは血腫や臓器損傷はなく、びまん性の浮腫のみ
   →ステロイド投与+アドレナリン吸入+抗生剤でICU入室
day4 浮腫進行して挿管
day6 頸部を開創したが血腫や膿瘍認めず
day10 穿刺したが血腫や膿瘍認めず
day11 ケースレポート書いた病院へ転院、再度穿刺したが液体引けず
   免疫検査は全て陰性、びまん性の脂肪壊死を認めた
day15 ステロイド1g+ステロイド250mg局注
day17 抜管
day21 再挿管、リパルス
day25 鼻腔ファイバーとCTで浮腫軽減、抜管
day30 経口摂取、ステロイド減量
day42 退院

びまん性の脂肪壊死による浮腫→気道閉塞という考察

②脂肪吸引後に頸部血腫で死亡した30代女性(日本の報告)
day0 頸部の脂肪吸引実施2時間で呼吸困難
    麻酔科医が気道確保を試みるも不可能で、気管切開実施中に心停止
   救急搬送先の造影CTで顔面動脈の分枝からExtra+右内頸静脈圧迫所見
day7 低酸素脳症で死亡

顔面動脈の分枝損傷→血腫が右内頸静脈を圧迫→浮腫増悪して気道閉塞という考察
甲状腺全摘後1時間、外傷による後咽頭血腫で数日後に致死的気道閉塞を起こした症例を引用して、数時間〜数日で気道トラブルが発生しうることを警告。

【脂肪塞栓/血栓塞栓】

なぜ脂肪塞栓が?というと、ブラジル式臀部形成術というものがある。
ブラジル式というのは、ブラジル人はデカいケツが評価されるらしく、わざわざそのためのコンテストも開かれている様。
美ケツを手に入れるために、脂肪を注入するというのが、ブラジル式臀部形成術である。
そして、この術式が美容形成外科において最大の死亡率を形成している。
発症のメカニズムは、臀部静脈損傷に伴う脂肪の静脈循環流入であり、米国形成外科学会も”脂肪は皮下組織のみに注入すべきで筋内に注入してはならない”という警告を出している。

よくある臨床症状は以下のように進行:
昏睡や見当識障害などの神経症状[発生率80%]→(6〜12時間後)呼吸困難感〜ARDS様の呼吸器症状→(2〜3日後)頭頸部や結膜下などのびまん性点状出血

診断は臨床診断(Gurd and Wilson基準またはFat embolism index)で、特にびまん性の点状出血が診断価値が高い。

血栓塞栓に関しても、日本からケースレポートあり。
こちらは、数日の時間経過を経て発症する。
day0 超音波処理で脂肪吸引(3050ml)、術後3時間安静して4時間で退院
day1 自宅で臥床
day2 自宅で臥床
day3 自宅トイレで心肺停止状態で発見、解剖にて肺塞栓の診断

発生メカニズムは過剰な脂肪吸引による局所的な血液濃縮+静脈血流の阻害と組織損傷による組織因子の放出+術後の不動化で、血栓を形成しやすいという考察。

コメント

・顔面の脂肪吸引後に合併症で死亡するというのはニュースでも知っていたし、顔が腫れて同僚にどうしたの?と言われるのもアリー・マイラブで予習済みである。Up to date先生が、「我々は、脂肪吸引を長期的な体重減少の戦略として推奨していません」と言っているから、ああ眼の前に現れる可能性はないな、めでたしめでたし…と思っていても、脂肪吸引を受ける人は存在しているから、ある日突然やってくる。バレエはふくらはぎの美しさ?が評価されるらしいので、これからも美容手術はなくならない。

・困るのは、何やられたのか分からないので、何が起きたのか分からないということ。どこまで経過観察するのか・・・?など誰も答えを持っていない。転送ってくれた医師も「いやーこんなの初めてです」と言うので自分で考えるしかない。なお、相手に「おっと、私の顔忘れました?」と聞き返さないのが大人。

・気道浮腫の人をいつ抜管するかは結構悩ましいが、ファイバーでフォローしながら、Day5での抜管を目指し、浮腫予防のステロイドを12時間前から使用する…というイメージだろうか。ただし、Day5というのは特に根拠はない。挿管チューブそのものでも声門浮腫を起こしたりVAPになることを考慮すると、ひとまずの目標として…。抜管時も即座の再挿管または外科的気道確保ができるような状態で抜管がいいかも(チューブエクスチェンジャーを残すのも1手か)。

・今回はケースレポートを多数読んだが、報告数が少ない割に日本からのものが多く、改めてケースレポートのありがたさを知る次第。いずれも東京からの報告であり、発生数を考えれば納得。

・1つだけ実臨床で冷や汗かく注意点といえるのは、医療保険によっては、美容合併症に対して保険償還を認めるかどうかの対応が異なるらしいので、とにかく敏感になっている家族に対して、お金の話は慎重にしておいたほうが良さそうだということだけはマジで要注意。

 参考文献

Wu S, Coombs DM, Gurunian R. Liposuction: Concepts, safety, and techniques in body-contouring surgery [published correction appears in Cleve Clin J Med. 2020 Jul 31;87(8):476.]. Cleve Clin J Med. 2020;87(6):367-375.

Valentine L, Alvarez AH, Weidman AA, et al. Liposuction Complications in the Outpatient Setting: A National Analysis of 246,119 Cases in Accredited Ambulatory Surgery Facilities. Aesthet Surg J Open Forum. 2023;6:ojad107.

Chemali M, Raffoul W. Upper airway obstruction following radiofrequency-assisted liposuction of the neck and lower face: a case report. Case Reports Plast Surg Hand Surg. 2022;9(1):225-228. Published 2022 Sep 30.

Nagano S, Unuma K, Makino Y, Mori H, Uemura K. Acute upper airway obstruction due to cervical hematoma after cervicofacial liposuction. J Forensic Leg Med. 2024;104:102697.

Wang HD, Zheng JH, Deng CL, Liu QY, Yang SL. Fat embolism syndromes following liposuction. Aesthetic Plast Surg. 2008;32(5):731-736.

Uemura K, Kikuchi Y, Shintani-Ishida K, Nakajima M, Yoshida K. A fatal case of post-operative pulmonary thromboembolism with cosmetic liposuction. J Clin Forensic Med. 2006;13(1):41-43.
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