集中治療の勉強・雑感ブログ。ICU回診でネタになったこと、ネタにすることを中心に。コメントは組織の意見ではなく、自分の壁打ち用。

対麻痺の治療にフェンタニル持続を中止する(んじゃない)

2026年2月8日  2026年2月8日 
架空の症例:
TAR+open stentで挿管気室 した患者に対麻痺が発覚した。
外科医はフェンタニル禁、ナロキソンの持続を指示する。
患者は挿管チューブや創部痛の苦痛が強く安静が保てない。

ナロキソンが対麻痺に効果あるだと?

内因性オピオイドが脊髄虚血を増悪させることを示唆したのは、というのは頸髄損傷の猫ちゃんでナロキソンが神経予後を改善した、という動物実験が発端になっている(Science . 1981 Jan 30;211(4481):493-4.)。脊髄に分布するオピオイドのデルタ/カッパ受容体が脊髄運動ニューロン傷害を起こすらしい。
その後、臨床試験でも効果を示した論文では、結論だけ見ると、”ナロキソンと脊髄ドレーンを併用することで著明な神経保護作用があった”である。(J Vasc Surg . 1994 Feb;19(2):236-46; discussion 247-8.  )。

なお、この論文のLimitationとしては…
・ナロキソン+脊髄ドレーン vs なにもないの後ろ向き研究でありナロキソン単独の効果をみたものではない
・術中管理が今と異なり、脊髄虚血軽減補助としてメチルプレドニゾロン(30 mg/kg)、マンニトール(12.5 g)、術中中度低体温(32~35℃)、血糖値230 mg/dl未満維持、大動脈閉塞直前および閉塞中に脳波検査でバースト抑制を維持するためチオペンタール投与、全静脈麻酔が行われた
・肝心のナロキソンは、麻酔導入時〜術後48時間投与されており、対麻痺の治療として投与されたものではなかった
・110例対象にしたが、主に対照群で早期死亡や神経学的評価不能患者が除外されている(12例中11例が対照群)
・症例数に対して、解析している項目が9と多く解析しすぎ
・ステントグラフトではなく開胸手術のみ
などだろう。

なお、外傷性の脊髄損傷を対象にしたRCTでは、ナロキソン単独はプラセボ対照群と神経学的改善の有意差を示せていない(N Engl J Med 1990; 322:1405–11.

これらを統合して個人的な解釈では、
・ナロキソンの効果は外傷性脊髄損傷の動物実験モデルで示唆されている
・人を対象にした外傷性脊髄損傷に対して、ナロキソンは効果を示せていない
・大動脈手術を対象にしたナロキソン単独の前向き試験は効果を示していない
であり、大動脈手術後の対麻痺治療にナロキソンが効果あるかというと、(よくわかっていないものの)強くNoといってよさそうである。

そもそもフェンタニルで対麻痺が悪化する?

一方で、フェンタニルで悪化するのか?
こちらは、動物実験レベルではイソフルランに加えてフェンタニルあるいはレミフェンタニルを加えても、脊髄虚血は悪化しないとされている(J Anesth (2009) 23:242–248)。
人間を対象にした観察研究などが特に見当たらず、むしろレビューでは対麻痺を引き起こさないというタイトルが見つかるくらい(日本離床麻酔学会雑誌 2012 年 32 巻 3 号 p. 359-365)。

コメント

・今のところ、フェンタニルが対麻痺を悪化させるというデータはないようだ。私はナロキソン投与の推奨はしない。同僚の心臓外科医も、ナロキソン持続は意味がないと言って行わず、フェンタニルはOKとしている。

・とはいえ、ここら辺は慣例、術者のお気持ち、育った環境に依存すると思うので、喧嘩する必要はないだろう。そもそも施設によってはルーチンでやっているところもあるようだし(日血外会誌 12:29–33, 2003)。外傷性脊髄損傷に対するステロイドは否定されて久しく、集中治療医的にはステロイド投与は議論の余地も残っていないのだが、術者次第では術後の対麻痺にステロイド(やナロキソン)を投与するかもしれない。その上、フェンタニル切ってナロキソン持続すると患者の疼痛コントロールが難しい。

・ところで、ナロキソン使うと、どうやって鎮痛しているんだろう…?
→ナロキソン使うと、オピオイドの必要量が増加した、って結局オピオイドつかっとるやんけ!(J Cardiothorac Vasc Anesth . 2021 Apr;35(4):1143-1148.)

・んだども、むが~す、あったずもな~、ステロイドの投与指示されで、やんわりお断りしたときに、”なんで入れさせてくれへんねん…病は気からって言うやろが!”といってお怒りになってもんずら〜。んだ〜ら、投与されておったとさ。どんど晴れ。

参考文献

Acher CW, Wynn MM, Hoch JR, Popic P, Archibald J, Turnipseed WD. Combined use of cerebral spinal fluid drainage and naloxone reduces the risk of paraplegia in thoracoabdominal aneurysm repair. J Vasc Surg. 1994;19(2):236-248.
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